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クリエイティブ集団「301」代表・大谷省悟氏が明かす、“面白い”を起点にする働き方

クリエイティブ集団「301」代表・大谷省悟氏が明かす、“面白い”を起点にする働き方
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舘﨑芳貴

RiCE.press

概要

グラフィックや空間デザインからイベント企画、複合施設のディレクションなどまで、様々なクリエイティブプロジェクトを手掛ける株式会社301を率いる代表の大谷省悟氏。社名の「301」は、大谷氏が新社会人だった頃にルームシェアをしていた部屋の番号から。業種も職種もバラバラの個性が交わり、一人では思いもよらぬ“面白いこと”が起こる、そんな場を創ることに関して抜群のセンスを発揮してきた。そんなコミュニティーを生み出す大谷氏の仕事術に迫る。

      コミュニティーが元となって始まった301の仕事

       

      —株式会社301は元々、ビルの「301号室」に人々が集まってコミュニティーのような形となり、そこから2015年に会社になっていったというストーリーがあるとのことですが、そこまでの経緯をまず教えていただけますか?

       

      元々は、ものづくりがやりたかったこともあり、映像制作会社でキャリアをスタートしました。そこで働きながらも、301の前身になるコミュニティースペースの運営のようなことをしていたんです。そこには本当に色んな人たちが集まっていて。当時20代半ばから後半が中心で、ちょうど会社や組織の中で自分ができることとできないことがわかってくるような時期で、自分のフィールドを超えて何かに取り組みたいという思いを持っていた人たちでした。もちろん、クリエイティブ関連の人もいれば、金融業界や行政で仕事をしている人もいて、バックグラウンドはバラバラの人たちの集まりで、そういう人たちが、心からコミットしたいと思える企画を社会に投げ込んでいくためのコミュニティーになっていきました。そうしたコミュニティー的な仕事の仕方に可能性を感じたこともあり、今の会社の形になったという流れでした。

       

      株式会社301 代表の大谷省悟氏


      株式会社301 代表の大谷省悟氏

       

      —コミュニティー的な仕事の仕方とは、一般的な企業とどういったところが違うのでしょうか?

       

      当時、自分が経験を積んでいたのは広告業界だったわけですが、ヒエラルキーが強固にある構造だということを知りました。メーカーが代理店に仕事を発注し、代理店がプロダクションに仕事を発注し、プロダクションはクリエーターに発注するというような縦型の構造がある。広告業界にいて、本当にいい仕事をさせていただきましたし、これは批判の類ではないのですが、全体像として見えてきたものとして、「ヒエラルキーの中では、この人はこの人の顔、あの人はあの人の顔、というように各階層がひとつ上を見て仕事をするという状況がある」と感じていました。もし一番上の設定が歪んでしまったら、その先に関わっている多くの人の労力やお金が全部歪んだ方向にいってしまう可能性もある。本質を見れない状況が起き得ると感じました。

       

      一方で、コミュニティーの中でやっていたことはその対極でした。ビジネスには全然なってはいなかったのですが、自分たちが本当に必要としている物事とか、社会はこうあってほしいと思うことに対して企画をつくり、それを社会に投じていく。そうやっているうちに、そっち側の可能性や未来を強く感じるようになりました。ヒエラルキー構造をバチンと完全にフラットにして、テーブルの真ん中にどういうビジョンを置くか、という考えのもとで、みんなが上の人を見るのではなく、フラットにビジョンに向き合うような形で仕事自体を作っていけないか。さらにいえば、仕事との関係をリデザインできないか、という考え方で作ったのが、会社としての301という感じですね。

       

      自分が会社に入ってわりとすぐにリーマンショックが起こって、数年後には東日本大震災があって、という時期で、それまでの社会システムや仕事のあり方にみんながやや疑問を持っていた時代だったと思います。プロボノやソーシャルアントレプレナーといった、利益を追求するのではなくて、社会的に意義のあることをビジネスとしてもちゃんとやっていこうみたいな機運もあったりして、その辺りへの関心は高かったですね。

       

      —今では企業が「コミュニティーづくり」に取り組むことが多くなりましたが、“いいコミュニティー”というのはどんなものだと考えますか?

       

      いいコミュニティーとは。難しいですね。ひとつは、「開かれている」ということが重要な気がしています。なんでもよければ、場もコミュニティーも作るのは簡単だと思うんです。でも、開かれたコミュニティーであろうとすると、「こういう人たちに来てほしい」という制約が難しくなります。今ビジネスの世界でよくコミュニティーという言葉が使われるのって、そういうことなんじゃないかと思うんです。なるべく開かれた、多様な人たちの入り口を持ちながら、でもこういう人たちに来てほしいっていう狙いがある。ターゲットを絞れば世界観は表現しやすいですが、広がりと多様性がなくなっていくっていう、トレードオフの関係があると思います。この“条件付きのコミュニティー”を実はみんなほしがっているんじゃないかなと。多様性、開かれていること、循環といった要素を担保しながらも、自分たちの求めるような人たちに集まってもらえる場、コミュニティーを目指したいという流れだと思います。僕もどうやったらそれを実現できるのかっていうところは場合によって、毎回、都度都度、考えているんです。

       

      代々木上原のバー「No.」

      2019年には代々木上原にバー「No.」をオープンし飲食店経営も行なっている。今年移転再オープンし依然人気スポットとなっているが、生活と仕事を結び、「文化と経済の中間領域」を自ら体現する場として、またリアルな現場を経験する機会として、301にとって重要な拠点となっている

       

      文化と経済が交差する領域をどうやって拡張していけるか

      道標は「人と計画の車輪」メソッド

       

      —「面白い」が活動の軸や推進力になっていることを仕事、ビジネスとしても成り立たせるのは簡単ではないかと思います。どのようなアプローチをしているのでしょうか? 

       

      それはまさに301のテーマでもあるのですが、「文化と経済が交差する領域をどうやって拡張していけるか」ということをずっと考えています。「文化」の方に寄りすぎるとアート活動に近くなり、それこそ国などの支援がないと成り立たないという状況が考えられます。一方、経済の方に寄りすぎれば、合理的な判断が主体となってしまって、正しいけれども面白くない、文化的価値が作りにくいということになる。そこで、この二つの中間領域をどうやって創造していくのかを常に考えています。個人レベルでいえば、「生活」と「仕事」という二つが対応するでしょう。こうすればいいという単一の答えはないですが、その試行錯誤こそが自分たちの事業そのもの、これまでたどってきた道なのかなとは思っています。そこにひとつ大きな方針があるとするならば、「人というものをちゃんと見る」「人を起点に物事を立ち上げていく」ということで、これが自分たちの中心にある考え方です。そこから全てが始まっていく。

       

      —全て「人を起点にする」ということですか。

       

      そうです。場でも、プロダクトブランドでも、コンテンツでも、何かを作る時には、「人と計画の車輪」というメソッドを道標にしています。これは自分たちで作ったメソッドなのですが、要は、「人に関する車輪と、計画に関する車輪が、連動して回っているか」という見方です。ビジネスの世界では多くの場合、人の部分というのは複雑すぎるために、ちょっとした変数として一旦なかったことにしてしまいがちです。そして、計画を正しく合理的に作っていきましょうとなる。でも、実際には人の部分って大事だよねって、みんな思っているはずなんです。やっぱり、誰かが情熱を込めて作り上げたブランドや事業というのは、いい形で立ち上がっていきますし、その後の伸びしろが全然違ってきます。メディアが面白がってくれたりとか、社会認知というものが変わってくる。みんなそれを体感としてわかっているはずなんですけど、なかなかそれを説明する術がないので、人より計画の話をしましょう、となっているのではないかという仮説です。

       

      「それは面白いか?」「それは本当か?」

       

      —人の心を動かすには、つくり手のエモーショナルな部分が伝わらないといけない。でもそれは、計画にそって正しく合理的に作っているのでは実現しないということですね。

       

      「人の車輪」をいかにビジネスの中で語れるものにするか、ということが重要になります。つまりは再現性の話です。例えば、この人がいたからこのプロジェクトは成り立ったよねという属人性は一定程度あるのですが、自分が着眼したのは、その仕事やプロジェクトを自分ごと化して関与できる仕組みを作ることです。仕組みがあれば、再現性があって、構造化できる。人がどういう形で仕事なりプロジェクトに関与していくか、というところをメソッド化しましょうという考え方です。プロジェクトがうまくいかない一番初めのポイントは、経営者なり個人がプロジェクトを自分ごと化しきれていないというパターンです。まずは、そこを徹底的に詰める作業をします。そこをクリアするまで、プロダクトのこともサービスのことも考えさせないっていうぐらい、徹底的にやります。揺るぎないところまで持っていくまで、その先の話を一切させないっていう。

       

      —詰められる側としてはハードな作業になりますね。どう詰めるのでしょうか?

       

      すごくシンプルにいうと、「それは面白いですか?」という質問です。面白いと思えるかどうかというのが、つまり自分ごと化できているかどうかなんです。どうしても企業の仕事の中では、こういうミッションがあるからとか、こういうことを事業部的にやらなきゃいけないから、というところからスタートすることがありますよね。それ自体は間違ったことではないと思うのですが、それを担当者やプロジェクトをリードする立場の人が、自分の人生としてどう捉えることができるか、というところが実は重要だと思っていて。その人が自分ごと化できていれば、その先に関わる人も自分ごと化できる。これが、“人の車輪”で一番初めにやることです。

       

      “計画の車輪”の方でリーダーが陥りがちなのは、願望で決めてしまう、ということです。「こうあってほしい」みたいな考えを計画にしてしまうということですね。なので「それは本当ですか?」「それはリアルですか?」「本当にそんな人がいるんですか?」という質問を徹底的にします。つまり、「人と計画の車輪」というのは、「それは面白いですか?」という質問と「それは本当ですか?」っていう質問。この二つをひたすら突き詰めることですね。

       

      複合施設「CABO」にてインタビュー 

      バー「No.」が入り、301社員の拠点ともなっている複合施設「CABO」にてインタビューに応えてくださった

       

      —プロデューサーとして、さまざまな立場の方々の間を取り持つという役割もされているかと思います。そこでのコミュニケーションの取り方で意識されていることはありますか?

       

      「人と計画の車輪」の考え方につなげて言うと、熱量の最大化を目指します。人の巻き込み方も、納期や条件が合うかということではなく、まずその人が仕事かどうか関係なく興味を持ってくれるかが一番初め。条件からスタートしてしまいがちですが、それは後でいいんです。話をする順序がとても大事ですね。仕事かどうか関係なく興味を持ってほしいので、この初めの部分は毎回丁寧に時間をかけてやっています。

       

      あとは、同じ言葉を話しているようで業界ごとで文脈が違うため認識が異なるということもあります。そこでは自分は翻訳家のようなことをしているのかなと思いますね。その場にいる多くの人が腑落ちする着地点を見つけてボールを投げてあげるという感覚です。時には、政治的な動きもします。担当者だけでは突破できないことがいっぱいあるので。自分は「ゲームルールをデザインする」という表現をしているんですけど、つまり、「何を目指すゲームなんだっけ?」と、曖昧なルールをリセットすることもあります。ゲームルールが明確になれば、クリアするための“オセロの角”は何かというところまで話ができるようになる。壁を突破するためには、そういったやりとりも必要だと思います。

       

      —最後に、経営者の方々に向けてメッセージをお願いします。

       

      文化に寄り過ぎても、経済に寄り過ぎても、面白くならないと思っています。それは皆さんもうっすら分かっているはずなんです。でも、どこかで様々な事情を加味して、仕方がないと割り切りながら、今、自分たちがやれることを選んでいる、もしくは選ばないといけなくなっているかもしれません。「でも、できるよ」っていうことですかね。それをもっと信じていいのではないかなという気がします。ちゃんとそこに向き合えば、面白くなるし、もっと世界がよくなっていくんじゃないかって思っています。

       

      ■プロフィール

      大谷省悟

      デザインから施設の立ち上げまで様々なクリエイティブプロジェクトを手掛ける株式会社301の代表。同社のオフィスとしての役割も兼ねたカフェバー「No.(ナンバー)」を2019年、代々木上原にオープン。今年6月に同エリア開業した住職遊は複合した施設「CABO」内に移転オープン。建築、まちづくりのプロジェクトに参画し、新しいコミュニティーと空間づくりを目指している。

      301 (外部サイトに移動します)

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文:舘﨑芳貴(RiCE.press)写真:島津美沙

      Published: 2023年12月15日

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