【目次】
コンプライアンスの意味と定義
コンプライアンス遵守が重要な理由
コンプライアンスとコーポレートガバナンスの違い
コンプライアンス遵守のために必要な取り組み
コンプライアンス違反ケース例
コンプライアンスのまとめ
コンプライアンスの意味と定義
コンプライアンス(compliance)とは、英語では「要求、命令、規則などに対する遵守」という意味で、一般的に「法令遵守」と訳されます。広辞苑 第七版では、「要求や命令に従うこと。特に、企業が法令や社会規範・企業倫理を守ること。法令遵守」と定義されています。
広辞苑の定義からもわかるように、近年では、コンプライアンスは単なる法令遵守にとどまらず、企業倫理や社会規範、企業の社会的責任(CSR)を含めた広義の意味で使われるようになっています。コンプライアンスという言葉自体に「遵守する」といった意味を含みますが、ビジネスの現場では「コンプライアンス遵守」という表現も多く使われています。
コンプライアンス遵守が重要な理由
日本では1990年代に相次いだ企業の不祥事の増加や、インターネットの普及、グローバル化などに伴い、企業がコンプライアンスを重視する姿勢が強まりました。コンプライアンスに反したことから社会的信用を失い、倒産に追い込まれることもあり得ます。コンプライアンス遵守は、企業にとって非常に重要な観点になっており、経営者から従業員まで一人ひとりが法令や倫理を守り行動することが求められています。
コンプライアンス遵守を徹底することにより、社会的責任を果たし、健全な組織風土が育まれ、リスクが回避できるのみならず、企業価値やブランド力、競争力や採用力の向上も期待できるでしょう。
コンプライアンスとコーポレートガバナンスの違い
コンプライアンスの文脈で「ガバナンス」や「コーポレートガバナンス」の話も出てくることが多いです。コンプライアンスとコーポレートガバナンスは、いずれも企業経営における重要な概念ですが、その役割や目的には明確な違いがあります。
コンプライアンスは、従業員や経営陣が日常業務の中で違法行為を避け、社会的責任を果たすよう努めることを目的とし、企業が法令や規則を守り、社会的規範や倫理に基づいた行動をとることに焦点を当てていますが、コーポレートガバナンスは、企業の経営の透明性や健全性を確保するための仕組みです。経営陣の意思決定を監視、評価し、不正を未然に防ぐための内部統制や監査制度が含まれます。コンプライアンスは「企業の具体的な行動」に関わるものであり、コーポレートガバナンスは「その行動を管理・統制する枠組み」です。
関連記事:ガバナンス(コーポレートガバナンス)とは?コンプライアンスとの違いや重要視される背景を紹介
コンプライアンス遵守のために必要な取り組み
コンプライアンスの遵守を実施するためには、法律を守ることだけでなく、組織全体の意識を高め、具体的な行動に落とし込む必要があります。代表的な施策について紹介します。
社内規程やガイドラインの整備
コンプライアンス遵守の徹底には、就業規則やガイドラインの作成など、基本方針や行動規範の明文化と全従業員がどのような行動を求められているかを理解し、遵守できる環境を整える必要があります。従業員が日常的に参照できるようにすること、法令改正や社会的リスクの変化に応じて、規定類を定期的に見直すことも重要です。常に最新の情報を反映したガイドラインを提供することで、変化に対応できる柔軟なコンプライアンス体制を維持できるでしょう。
コンプライアンス研修の実施
コンプライアンス遵守を実現するには、経営者だけでなく、従業員一人ひとりの意識向上も欠かせません。法令知識や倫理観を高める研修などの実施が必要です。
入社時に、まずは自社の基本的なコンプライアンスの考え方を伝えることが効果的でしょう。加えて、定期的に研修を行うだけでなく、役割や業務内容に応じた対象別の教育プログラムも用意することで、実務に即したコンプライアンスへの理解の促進が可能となるでしょう。集合研修やeラーニング、実際の違反事例をもとにしたケーススタディの活用など、有効な手法は多種があります。定期的な研修を通じて、有効に従業員にコンプライアンス遵守を自らの行動指針として定着させることが、企業全体のリスク低減につながります。
内部通報制度の導入と運用
企業内での不正や法令違反を早期に発見し対応するためには、従業員が不正行為や違反を匿名で通報できる内部通報制度の整備も不可欠です。
制度の運用においては、従業員が安心して利用できる環境の整備が求められます。通報者の匿名性を確保し、報復防止のための措置を講じるようにしましょう。さらに、通報を受けた後は、速やかに調査を行い、その結果や対応状況を通報者に適切に伝えることが大切です。こうした対応を通じて、通報制度が信頼できるものであることを従業員に認識してもらい、制度の活用促進につなげることができます。結果として、組織全体のコンプライアンス意識を高め、不正の抑止効果も期待できます。
リスク管理体制の構築と定期的な見直し
実効性のあるコンプライアンス遵守の実現には、リスクの早期発見と適切な対応が不可欠です。そのためには、業務に潜むリスクを的確に把握し、管理できる体制づくりが必要です。変化する外部環境や内部状況に柔軟に対応するためには、リスク評価の結果をもとにPDCAサイクルを回し、定期的にリスク管理体制を見直すことも重要でしょう。
リスクに関する対応マニュアルの整備やモニタリング体制の構築などにより、各業務で発生し得るリスクを洗い出し、その影響度や発生確率を評価することで、どのリスクを優先的に対処すべきかを明確にできます。その上で、優先度の高いリスクから順に対応策を検討し、実行することで、より実効性のあるリスク管理が可能になります。このように、リスク管理体制を整えることは企業のコンプライアンス体制の強化にもつながります。
関連記事:リスクマネジメントとは?リスクヘッジとの違いや目的、手法や種類を解説
取引先との契約書や遵守事項の明確化
コンプライアンス遵守は、自社内だけでなく取引先との関係においても重要です。契約を締結する段階でリスクを適切に管理することで、将来的なトラブルや法令違反を未然に防げます。
取引開始前に、企業の経営や財務状況を調査するデューデリジェンス(Due Diligence)を行い、相手先の信用やコンプライアンス遵守の状況を確認し、契約書にコンプライアンス条項を明記し、遵守義務や違反時の制裁措置について明文化しておくことが必要でしょう。契約締結後も定期的に取引状況をモニタリングし、必要に応じて契約内容の見直しを行うことで、継続的なリスク管理が可能となります。こうした取り組みにより、外部との健全な関係構築と、企業全体のコンプライアンス強化が実現できます。
関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?M&Aにおける意味や種類、費用をわかりやすく解説
法改正への迅速な対応体制の構築
コンプライアンスを維持するには、常に変化する法令への対応も欠かせません。特に、近年は社会情勢の変化に伴い、法改正の頻度も増えているため、最新の法令情報を把握し、迅速に実務へ反映できる体制を整えることが重要です。
法務部門の強化や外部の専門サービスの活用により、法改正情報を的確に収集する体制を構築し、改正内容を社内へ適切に展開し、対応スケジュールを策定することで、混乱なく業務を進められるようになるでしょう。一連のプロセスを迅速かつ確実に実行することで、法令違反のリスクを最小限に抑えられるようにすることが大切です。
コンプライアンス違反ケース例
企業に深刻な損害を与える可能性があるコンプライアンス違反。その内容は多岐にわたりますが、大きな分類としては「労働問題」「法令違反」「不正経理」「情報漏洩」の4つのケースが挙げられます。
労働問題
コンプライアンス違反の中でも、労働問題は発生頻度が高く、企業に与える影響も大きいです。労働問題に関するケースの代表的な例としては、過重労働やハラスメント、不適切な雇用契約などが挙げられます。
これらの行為は労働基準法違反に該当し、従業員の健康を害するだけでなく、職場環境の悪化や企業の評判低下にも直結します。適切な労務管理や職場環境の整備の徹底が必要です。定期的な労働時間の確認や、ハラスメント防止のための教育、相談窓口の設置など、具体的な対策を講じることは、企業の持続的成長にもつながるでしょう。
法令違反
企業が遵守すべき法律は、前述の労働基準法などの労働法、会社法、個人情報保護法、景品表示法を含む消費者保護法、独占禁止法などから食品衛生法や著作権法など業種や事業内容に応じた法令まで多岐にわたります。そのいずれかに違反した場合は重大なコンプライアンス違反となります。
法令遵守の意識を全社で共有し、定期的な社内チェックや外部監査の実施が重要です。また、法律の改正にも迅速に対応できる体制を整えておくことは、信用の失墜や取引停止、罰則や賠償責任など企業の存続を脅かすほどの影響を及ぼす可能性もあるリスクの回避につながるでしょう。
不正会計
財務情報の不正操作である、粉飾決算や架空請求、脱税など不正会計も、深刻なコンプライアンス違反の一つです。
企業の経営実態を偽る行為を防止するためには、内部監査の体制を強化し、財務に関わる業務の透明性を高めることが重要です。外部の公認会計士や専門家による監査などを適切に活用し、株主や取引先、顧客からの信頼を失い、株価の急落や訴訟リスクある不正を抑止する仕組みを整備しましょう。
情報漏洩
顧客情報の流出やインサイダー取引、サイバー攻撃によるデータ漏洩などの情報漏洩も、企業の信頼を損なう重大なコンプライアンス違反です。
企業の法的責任も問われ、事業継続に影響する恐れがある情報漏洩を防ぐためには、システム面でのセキュリティ対策の強化と、従業員への情報管理教育の徹底が不可欠です。万一の漏洩発生時に備えた対応マニュアルを整備し、迅速な対応ができる体制を構築することも重要でしょう。
コンプライアンスのまとめ
以下に、コンプライアンスの要点をまとめます。
・コンプライアンスとは、法令遵守だけでなく企業倫理や社会的責任を含めた広義の概念である
・企業は具体的な施策を通じてリスクを回避し、企業価値や信頼性を高めることができる
・違反事例を教訓に、全社的なコンプライアンス体制の整備と継続的な改善が重要である
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