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「手と手が重なる」出会いができるマッチングサービス、オンライン書店「Chapters」。―My Rules vol.3―

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コンデナスト・ジャパン
概要

世の中には無数の「Rule」が存在します。「Rule」には、普遍的なものもあれば、流動的なものもあります。「時代に合わなければ、変えればいい。まだなければ、つくればいい。」経営者やスタートアップ、スモールビジネスオーナーはそうして自らのビジョンを信じて前に進み続けています。本企画〈My Rules〉では、「進もう、自分のやり方で」と既存の概念にとらわれず、自由な発想・新しいやり方でビジネスを展開されている方々のインタビューをお届けします。

今回は“本棚で手と手が重なるように出会える”オンライン書店「Chapters」を運営する森本萌乃氏に、会社の立ち上げからコロナ禍での経緯や、サービスを軌道にのせるまでのプロセス、そして対投資家への対策方法をうかがいました。

      起業をするきっかけは1本の映画だった

       


      森本萌乃氏

       

      ──会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

      新卒で電通に入社し、リアルイベントを企画するプランナーをしていました。配属先が仕事へのモチベーションが高いチームだったこともあって、やりがいもあり、すごく楽しく、良い経験をさせてもらいました。4年経ったころ、自分としては企業とお仕事するto Bより、もっとお客様に近いto Cの仕事がしたいということに気づき、当時のクライアントだった外資系企業に転職しました。1年間勤務した後、スタートアップ企業に契約社員として入社。2年間勤務したのですが、その間に副業で自分の会社を立ち上げました。

      ──最初は副業としての起業だったのですね。きっかけはあったのでしょうか?

      勤務していたスタートアップ企業への勤務は週4にしてもらい、平日のうち1日は自分のことを考える時間に充てていたんです。実は、外資系企業に所属しているときに、仕事を頑張りすぎて体調を崩してしまって。生き方を考えるという意味も含め、一旦リセットしたいという気持ちがありました。それに、「お客様を自分自身で持ちたい」という気持ちが強くなってきていたので、それを実現する「何か」を考える時間を作りたかったというのもあります。

      水曜日をお休みにしていただいていたのですが、カフェに行って色々と考えるんです。平日のカフェって休日と全然景色が違うんですよ。空ってこんなに広かったっけ、東京ってこんなに人少なかったっけとか。そういう時間の中で、お客様と直接関わることがしたいけれど、いざ何をやろうかなと考えている中、自分の経験を通してサービスのアイデアに辿り着いた感じです。

      当時、全然彼氏ができなくて(笑)、私生活でマッチングアプリをけっこうやっていたのですが、どんな人とマッチングしたいかと言われたら、どうしても理想が高くなるんです。だからといって、自分のプロフィールをよく見せるのはなんだか気恥ずかしさがあり当然マッチングもしない。実際、マッチングアプリでは写真やプロフィールで会うかどうかを決めるので頑張らなくてはいけないのですが、私のようにプロフィールに何も工夫してないと出会えなくて当たり前ですよね(苦笑)。

      こういった経験から、マッチングアプリでの出会いってしんどいなと漠然と思っていました。

      私は読書が好きで、時間さえあればずっと本を読んでいるのですが、例えば自分のプロフィールを好きな本や作家で語れたら、もっと楽だしやりたいなと思ったんですよね。同じ本を読んだことがある人同士って、男女問わず盛り上がるじゃないですか。     

      そんな時に、偶然金曜ロードショーで映画『耳をすませば』を観たんです。

      大まかなストーリーは、言うと、主人公の読書が大好きな中学生の女の子が学校の図書館で借りようとする本の貸出カードには、いつも同じ男の子の名前が書かれていて。二人は偶然出会うことになり、その男の子がバイオリン職人になるという夢を抱いていることを知り、刺激された主人公が小説を書き始める……というストーリーです。

      同じ本を読んだことが二人をつないでいく。その構図すべてがポジティブで、すごくきれいだなと思ったんです。アプリのように条件を擦り合わせることで出会うのではない。本来の恋愛ってそうだったって急に思い出して。こんな「本棚で手と手が重なるような偶然の出会い」を提供したいと考えて、会社名も「MISSION ROMANTIC」と命名しました。

       

      アナログからはじめた事業、コロナ禍に副業から1本化へ

       


      会社の壁に飾られた『耳をすませば』の実写版ポスター。2022年10月14日公開

       

      ──偶然観た映画でアイデアが完成されてから、どのように進んだのでしょうか?

      『耳をすませば』を金曜ロードショーで久しぶりに観たのが2019年の1月だった気がします。起業準備は進めていましたが、『耳をすませば』を再度観たことで自分の仮説である「本から始まる出会い」の可能性を強く信じることができ、翌月2月末には会社を立ち上げていました。     

      副業ではじめたことも大きかったかもしれません。週4日は会社員として仕事をしていたので、生きていくうえでのキャッシュフローには心配がなかった。今は自分の会社1本でやっていますが、当時はそれだけで食べていく気はまだありませんでした。

      ──副業としてではなく、1本でやると決められたきっかけはありましたか?

      私がそのスタートアップ企業に勤務していたのは、2018年から2020年までになります。勤務して1年が経った2019年に「MISSION ROMANTIC」を立ち上げ、2020年まではオフラインをメインとしたサービス展開をしていて、サービス自体は好評だったのですが、ビジネスとしては収益化できていませんでした。そんな中コロナ禍になり、最初の緊急事態宣言が出た2020年の4月に、スタートアップ企業との契約が切れてしまったんです。

      それで失業保険をもらおうとハローワークに行ったのですが、起業しているから失業保険が出ないと言われてしまって……。途方に暮れて、帰宅して急いで転職サイト見たんですけど、どんなに探しても行きたいところがなかったんです。自分でやりたいことを事業にしているから、当然ですよね。それなら自分の会社に就職しようと決意して、転職することもやめて自社の事業に専念することにしました。

      ──収益化がまだ見えてない状況での決断だったのですね。

      とはいえ、2019年に1年間オフラインでサービスを展開し、手応え自体は感じてはいました。その頃は、最初に選書リストを送り、その中から2冊選んでもらい、2カ月かけてその2冊を読んでもらう、そして3カ月目に、同じ2冊の本を選んだ男女数名をディナーに招待するという仕組みでした。本を送ったり、マッチングさせたり、招待状を作ったりという作業は全部自分で、アナログでやりました。最初は電通時代の同期や身近な友人に声をかけてテストするところからはじめたんですが、メディアに取り上げられるようになってからはウェイティングリストが1,000人を超えました。これから徐々に収益化に舵を切っていこうと思っていた矢先に、コロナになってしまったという感じでしたので。

      最初にアナログでやったのは、自分ひとりしかいないからではなく、一応戦略があったんです。“ロマンチック”という具体化しづらい、一見お金にもならなそうなものをビジネス化するときに、どこをロマンチックと定義し、どこをテクノロジーで便利に解決していくか。サービスの強弱やどこが大切かを見極めるために、アナログでやることが得策だと感じましたし、実際1年間のアナログ運営はその後のサービスを作る上でもやってみて本当によかったと思っています。いずれはオンラインにするつもりだったので、コロナをチャンスと捉えてサービスのデジタル化に邁進していきました。資金調達も並行して進めましたが、うまく調達できず、最初は借金をしてはじめました。

       

      「Chapters」を生んだのは130ページの手書きの設計書

       


      手書きで書かれた「Chapters」の設計書の一部

       

      ──サービスローンチへ向けてどんな活動されていったのか教えてください。

      オンライン書店「Chapters」のβ版をローンチしたのが2020年の12月です。8月から約3ヶ月半で、私と現在CTOをしているエンジニアと外注のデザイナーさんの3人で制作しました。色々参考文献や近しいウェブサイトを見ると、思考を引っ張られて同じようなデザイン・サイトになってしまうと思い、あえて資料などは見ず、画面設計をすべて手書きでおこしました。その数なんと約130ページ。それをCTOであるエンジニアに渡して、Webサービスにしてもらいました。なので、構想は私が考えましたが、「Chapters」のサービス誕生は9割、彼のおかげです(笑)。

      構想を考えるプロセスにおいては、やはりオフラインでのアナログ運営の経験が役立ちました。「Chapters」では毎月4冊の本を選書し、その中からお客様に1冊選んでもらうという仕組みなのですが、その際に直感や感性を大切にして欲しいので、著者名やタイトルを隠した状態にしています。そうすると、届くとお客様はポストをワクワクしながら開けますよね。その行動がすごく大切なんです。マッチングの仕組みに関しては、人がやっても機械がやっても大差がないことが解ったので、マッチするために必要な最低限のロジックで組んでいます。何が必要で何がいらない、と理想とするユーザー体験をローンチ時に把握できていたのは強かったですね。

       


      「Chapters」オリジナルのブックカバー。リボン型のしおりも付いてくる

       

      ──市場調査などもされましたか?

      主にマッチングアプリを中心に調査しました。現状の書店業界のビジネスモデルでは私たちのような後発のオンライン書店は生き残れないと感じたので、マッチングアプリのサービスのあり方やマネタイズの方法をまずみて、全体に対して課金ユーザーはどのくらいの%なのか、それに対して広告費・運用費・リソースはどこにかかりそうか……といったところを、オンライン上に落ちている情報や株主総会の資料を読んで勉強しましたね。ただ「Chapters」ローンチ後は、自分達のサービスが既存のマッチングアプリとは成長戦略が全く違うことを感じ、調査・比較したりするのはやめました。「Chapters」は、なにかの代替サービスとしてではなく、新しい市場を創っていくサービスとして捉えています。

      ──「Chapters」はマッチングサービスながら、アルゴリズムを極力シンプルにしていますが、そこにも狙いがあるんでしょうか?

      「本棚で手と手が重なる」がテーマなので、本がメインになるようにアルゴリズムも考えています。

      あくまでも日常の延長戦で出会いたいけど、何万冊も本がある状態だと同じ本を選ぶ偶然が起きづらいから、じゃあ4冊までに絞ろうとか。自分で誘うのは勇気がいるから、じゃあ運営が日程によって自動でマッチさせようとか。     

      データを駆使したアルゴリズムも、シンプルなアルゴリズムも、結局お客様のニーズは気の合うたった1人の誰かに出会いたいということだけなので、必ずしも最先端が最適解ではないじゃないですか。お客様には見えないですが、毎月重視するプロフィール項目や比重は微妙に変えて、色々な仮説やお客様のニーズを検証しています。「Chapters」らしいアルゴリズムを考える作業は、開発のおもしろいところとも言えますね。これは、ユーザーの母数が増えてきたらもっともっとお客様も私たちも楽しくなると思います。

      ──サービスを通じてカップルになられた方もいらっしゃいますか?

      最近2組カップルが成立して、運営側にもご報告の連絡を頂いたんですが、理想通りの体験をしてくれていました。そのカップルの方が仰っていて、すごく嬉しかったのが「マッチングアプリで出会ったと思っていない」という言葉です。あくまで毎月好きな本を選んで読んでいたら、同じ趣味嗜好の気の合う人と出会えた。1組は11歳の年の差があるカップルなんで、さらには遠距離恋愛なんですよ。既存のマッチングアプリだったら、最初のセグメントで切られていて会うこともなかった二人です。もちろん日常で出会うこともないですよね。そんな二人が、お互いを自然と好きになっていく……「Chapters」がまさにやりたかったことです。サービスを続けていて良かったなと実感しました。

       

      広告代理店で培ったピッチ力とバランス感覚
      で“ロマンチック”な出会いを追い続ける

       


       

      ──対投資家との面談や会社を経営していく上で、代理店勤務の経験が役立っていると感じますか?

      すごく役立っていますね。あの時代がなければ、今こうやって自分で会社を興すなんてできなかったと思っています。例えば、投資家の方々へのプレゼン。相手の様子や興味のある領域に応じて、話す順番や強調する部分を変えたりするのは、電通時代に学んだことです。

      でも電通時代に教わったことで、逆に通じないと思うこともありました。それが資料の作り方です。電通では、資料にどれだけ素敵な言葉を入れて心を揺さぶるかが大切だったんですけど、投資家相手では重要なのはそこではなくて。成し遂げたいことは何か、解決すべきペインは何か、それに対して何を生み出すのか……など、世の中でスタンダードになっているフォーマットを使って、投資家の方が頭に描きやすいストーリーにするのがいいと気づかされました。どんなにカッコいいことをやろうとしている人も、この世にまだないものを作ろうとしている人も、絶対にスタンダードなフォーマットで準備した方がいい。奇をてらわなくて良いんです。これはぜひ、参考にしてみてください。

      また、色々な方にお会いして得たフィードバックも大切です。具体的な内容には投資家の方々で差はあれど、皆さんから「マッチングを軸でやりたいのか」「本を軸でやりたいのか」と尋ねられることが私の場合はほとんどでした。そこに、活路が見えた気がしたんです。どっちかに絞らなくちゃいけないサービスということは、すでにどっちかを生業としている会社と組んだ方が共感する部分が多そうだなと。色々な方にお会いし、たくさんのフィードバックを頂いた経験のおかげで、本の取次の大手・トーハンからの調達につながったんだと思っています。60年という歴史をお持ちの中で、初めてシードラウンドで投資を入れてくださったそうです。

      ──今後についても教えてください。

      現在会社のコアメンバーは、私とエンジニアのCTO、新卒として今年入社してくれたスタッフの計3人です。できれば今は、この3人でどこまでいけるか頑張ってみたいと思っています。「手と手が重なる出会い」は実現できたので、次はこのサービスできちんと食べていけるようにするのが目標です。自分たちが生きていける給料を捻出するのに今年は必死です。

      足元の金銭的な問題はありますが、中長期でやりたいこともようやく見えてきました。「MISSION ROMANTIC」という会社名にした通り、ミッションは“地球上にロマンチックな出会いを増やすこと”と掲げています。メインサービスである「Chapters」は自分がイチから初めて立ち上げた尊いサービスだと思っているので、これをもっと使ってもらいたい。そのためにサービスをより良いものにしていきます。今会社としては4期目、「Chapters」は運営を始めて1年ちょっとですが、全然飽きなくて、むしろこれしかやっぱりやりたいことが見つからないんです。やりたいことを信じて突き進む方針は、社内のメンバーや投資家たちにも賛同してもらえているので、今後も精一杯取り組んでいきたいですね。     

      ──最後に、経営者として活躍されている方や、これから起業される方へのアドバイス、メッセージをお願いします。

      アイデアや大切なものは、自分の中から出てくるもの。だから、人の意見を聞きすぎて丸めない方がいいです。起業するまでは、あまり人に会わず、なるべく1人でやることをオススメします。起業してからは、自分の気持ちだけでいくとビジネスではなくなってしまう。お客様のお財布からお金をいただくのに、独りよがりは相手に失礼じゃないですか。だから信頼できる相手やお客様から意見をたくさん聞く。自分自身でも常に心がけて、1人でやるべき作業と人から意見を聞いて進めるべき作業、そのバランスを意識するようにしています。そうすることで余裕を持てるようになり、楽しみながら仕事ができると思っています。

       

      ■プロフィール

      森本萌乃

      1990年東京生まれ。株式会社「MISSION ROMANTIC」代表、オンライン書店「Chapters」店主。 2013年に新卒で株式会社電通に入社、4年間プランナーとして従事した後「My Little Box」と「FABRIC TOKYO」へ二度の転職を経験。「FABRIC TOKYO」在籍中にパラレルキャリアにて自身の会社を創業。「Chapters」のプロトタイプ「MISSION ROMANTIC book」を1年間アナログで運用後、2020年12月1日に“本棚で手と手が重なるように出会える”オンライン書店「Chapters」β版ローンチ。2021年6月7日に「Chapters」製品版ローンチ。

      MISSION ROMANTIC (外部リンクに移動します)

      Chapters  (外部リンクに移動します)

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文・編集:井上峻(監修:コンデナスト・ジャパン)

      写真:澤海瑞穂

       

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      Published: 2022年9月8日

      Updated: 2025年6月22日

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