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【SMASH 佐潟敏博氏】フジロックを支えるのは、1つの価値観を押し付けないSMASHカルチャー

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SWITCH編集部
概要

1983年に日高正博によって設立された「SMASH」、株式会社スマッシュは国内外の多種多様なアーティストのライブ制作、プロモーションを行っている。1997年からはフジロックフェスティバルを開催し、日本のフェスカルチャーの礎を築いたと言っても過言ではない。そんなSMASHで長年にわたって音楽業界の移り変わりを間近で見ながら、2023年に新たに取締役社長に就任した佐潟敏博氏に訊く、SMASHの存在意義とビジネスをしていく上で大切にしている心得とは。

      原点にあるのは、“音楽が好き”という気持ちと“ロックなことをやりたい”という思い

      株式会社スマッシュ 取締役社長 佐潟敏博氏

       

      SMASHに入社されてから30年以上にわたって国内外のアーティストのライブ制作やプロモーションをはじめ、フジロックや朝霧JAMといったフェスの運営に携わられています。2023年に取締役社長に就任されましたが、まずは、SMASHに入社された経緯を教えていただけますか。

       

      僕は九州の鹿児島出身なのですが、高校生の頃から音楽が好きでいろんなアーティストの音楽を聴き、友達と一緒にコンサートに足を運んでいたんです。その頃から漠然と将来は音楽業界で働きたいなと思っていました。高校卒業後は上京して大学に通いました。僕の世代はちょうど就職バブル期だったので、就職活動をすれば結構内定ももらえたんです。でも結局、僕は就職はせずに大学卒業後はあるレコード会社でアルバイトをすることにして。1年ぐらいそんな生活をしていたのですが、大学まで出してもらったのにフラフラしているのは親にも申し訳ないなと思い、レコード会社にSMASHを紹介してもらい、入社しました。ただ、正直当時はSMASHがどんなビジネスをしている会社なのかはよくわかっていませんでした。とにかくどんな形でもいいから音楽業界にしがみついていたいという思いだけだったような気がします。

       

      実際に仕事をされてみてどうでしたか。

       

      リスナーだった自分からしたら遠い世界の存在だと思っていた海外のアーティストと間近に接する仕事だったので、すごく新鮮でした。高校生の頃に憧れていたアーティストを自分が運転する車に乗せて現場に連れていったりするわけですから、不思議な感覚でした。フジロックが始まったのは1997年で、僕が入社して5、6年目ぐらいだったと思います。

       

      フジロックの立ち上げをはじめ、取り組まれているビジネスにおける様々な変化も経験されてきたと思いますが、SMASHが会社として大切にされている価値観はどのようなものなのでしょうか。

       

      SMASHの原点には創業者である日高(正博)が掲げていた“ロックなことをやりたい”という思想というか、信念があると思っています。例えば、現在では普通に行われるようになった、大きな会場でのスタンディングでのコンサートを初めて後楽園ホールで開催したのはSMASHだったんです。他にもレッド・ホット・チリ・ぺッパーズがまだ大手レコード会社と契約する前に、初めての来日公演を企画して成功させたこともありました。音楽業界の中に知らず知らずのうちに作り上げられていった固定概念や既定路線といったものに何も考えずに乗るのではなく、自分たちがやりたいと思うことをやる。それがSMASHの根本にある精神であり、音楽と自然とお客さんが一体となって生まれるフジロックがSMASHの集大成なのかなと思います。

       

      今年28年目を迎えるフジロックですが、初年度となる1997年は山梨県の富士天神山で開催され、台風の影響を受けて2日目が中止となる事態が起きました。翌年1998年は東京の豊洲エリアで開催され、1999年からは新潟県の苗場に会場を移し、現在に至るまで続く老舗フェスとなりました。これだけ長い間フジロックを続けることができている要因はどこにあると思われますか。

       

      フジロックが他のフェスと決定的に違うのは、場所と環境づくりだと思います。アーティストをたくさん呼んでライブをやるだけなら東京ドームのような、首都圏で天候にも左右されない会場で十分だと思うんです。でもフジロックには、あの苗場という特別な場所でしか体験できないものがある。それが最大の魅力であり、長年通い続けてくれるファンがいる理由なのかなと思います。運営している僕らSMASHのスタッフにとってもフジロックは新しい音楽や新しい人たちに出会う場所になっていますし、毎年本当に特別な体験をさせてもらっています。ありがたいことに“SMASH=フジロック”と広く認知していただいているのですが、社長という立場になったことで、フジロックに頼ってばかりではいけないなという思いも、より強くなってきました。会社としては新しいことにも挑戦していかなくては更なる成長には繋がらないですからね。

       

      フジロック以外の新しい挑戦も考えられているとのことですが、もう少しフジロックについて質問させてください。フジロックは日本のロックフェスのロールモデルだと思うのですが、時代の変化と共に観客や社会からのフェスに対するニーズも変わってきています。フジロックらしさを守りつつ、新しいフェスの在り方も提示していかないといけない、といったせめぎあいもSMASHの中ではあるように感じるのですが。

       

      日高のもとで長年フジロックを運営してきた僕のような人間からすると、あのフェスはある程度完成されていると思います。そこに更なる進化を促すためには、開催地の苗場の若い世代やSMASHで働く若い世代にどのようにフジロックの仕事をバトンタッチし、そこに彼らの新しい価値観やエネルギーを注入していくかがポイントになるのかなと考えています。

       

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      固定概念に左右されず、カッコいいことをやり続けるのがSMASHらしさ

       

      バトンタッチしていく相手として開催地の若い世代の方々もお考えだとのことでしたが、フジロックの開催において、企業や自治体含め、苗場の地元の方々との連携が必要不可欠かと思います。フジロックに伺うと本当にたくさんの方々がフェスの運営を支えていらっしゃると感じますが、どのようにして関係性を築いてこられたのでしょうか。

       

      1999年開催の第3回目のフジロックを苗場でやりたいということになり、地元の方たちのところに説明に行ったのですが、初年度の天神山での状況を噂などで聞かれていたようで、最初は開催に反対の方も結構いました。どんな荒くれ者たちがうちの地元にやってくるんだろうと心配されていたんだろうと思います。そこで僕らはきちんとフェスについての説明をし、時には一緒にお酒を酌み交わしながら、互いの思いを語り合いました。そうしてなんとか苗場で開催させてもらえることになったのですが、一番大きかったのは、実際にフジロックを地元の方々に体験していただけたことでした。フジロックのお客さんたちは礼儀正しいし、マナーも守る人たちであることを理解してもらうことができました。そこからフジロックに対する地元の認識が変わっていったと感じていますし、長い年月の積み重ねで信頼関係が生まれたことで、ここまで続けてこられたんだと思います。実はつい先日も苗場で新年会があって、僕も含めてSMASHのスタッフが何人も現地に行って地元のみなさんと飲んできました。1、2年フェスを開催しただけでは、こうした関係は築けないと思うんですよね。

       

      ビジネスにおいて大変重要な、長きにわたり続けていくということを実現されていますが、そのためには、短期間で効率よく利益を上げていくことも必要となるか思います。長期的なビジネスと短期的なビジネスの在り方に対しては、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。

       

      もちろん即効性のあるビジネスができたらいいと思いますが、そこばかりを追いかけるのは僕らSMASHの仕事ではないと思っています。例えば、今人気のアイドルをブッキングすればフェスの集客は上がるかもしれない。でもそうしたやり方はSMASHとしては「ノー」だと思うんです。先ほどお話した“ロックなことをやりたい”という思いにも通じることですが、周りの人たちか“SMASHはカッコいいことやっているよね”と思うようなことだけを僕らはやりたい。僕らがやっているのはロックな音楽を提供する仕事です。だからこそ、ダサいことはしたくないと思っているんです。

       

      “カッコいいこと”の価値観や基準は人それぞれ違うものだと思うのですが、SMASH社内では共通の“カッコよさ”をどのように共有されているのでしょうか。

       

      もちろん人それぞれで“カッコいい”は違います。スタッフそれぞれが自分の中にある“カッコいい”を追求していくべきだと思いますので、ある一つの価値観をスタッフに押し付けようとは考えていません。自分の好きな音楽がカッコいいと思うのであれば、固定概念などに左右されることなく、やりたいことをやるべきだし、そうした仕事の在り方ややり方が“カッコいい”ことだと思っています。

       

      同じ“カッコいい”に向かっていくのではなく、それぞれが本当に“カッコいい”と信じていることをやっていけば、“カッコいいこと”になるということですね。

       

      そうです。やはり僕らの仕事は音楽なので、人それぞれにテイストや個性がありますから、社長である僕が何かを押し付けてしまうとスタッフもついてきてくれないと思うんです。日高もよく言っていたんです。「自分が好きだと思うならやってみれば?」と。その言葉が今でも僕の心の中には残っているし、そのスタンスは引き継いでいきたいですね。

       

      先ほどのフジロックだけではなく新しいことにも挑戦していきたいと考えていらっしゃるというお話にもつながるのでしょうか。

       

      SMASHのスタッフだけでなく、フジロックを開催するために関わってくれるたくさんの人たちがそれぞれに確固たる信念を持ち、苗場で楽しそうに仕事をしてくれている。そうした人たちの思いも含めて、若い世代にしっかりとバトンタッチし、フジロックの未来を託していくことが僕の役割の一つかなと思っています。

       

      フジロックで培ってきた経験を活かして、新しいフェスなのかイベントなのかを作っていきたいですね。さらにアーティストの単独公演に関しても、SMASHらしい、SMASHにしかできないようなアーティストのライブを開催していきたいと考えています。まだ誰も知らないような、でも本当に素晴らしい音楽やアーティストをどんどん日本に紹介していきたいですね。

       

      重視すべきなのは、損得ではなく信頼や信用を得ること

      SMASH本社の屋上にて

       

      ここからは具体的な仕事内容についてもお聞きしたいのですが、フェスやライブの制作においてはアーティストやマネジメント、レコード会社、会場の現場スタッフの方々も含めてたくさんの人が関わり、全員で一緒になって一つのものを作っていくことになります。ライブやフェス全体を統括するSMASHとして仕事を進めていく上で大事にされていることはありますか。

       

      ライブの現場で働いている人たちはそれぞれの道のプロフェッショナルが多いので、なるべくその人たちの仕事内容を勉強して、知識を少しでも自分の中に蓄積しておかないといけないなと思っています。例えば、音響や照明の仕事においては様々な機材が使われていますし、専門用語もたくさんあります。そうしたことを学び、少しでも近いレベルで、現場で話ができるようにしたいと考えています。それは英語も然りで、音楽業界特有の専門用語もいろいろあるので、きちんと調べて理解し、海外の人ともコミュニケーションが円滑に進められるよう意識しています。話が上手く通じないと相手からの信用も得られませんから。

       

      多くの海外アーティストを日本に招かれていますが、海外の方々とビジネスをされるうえで意識されていることや気をつけていらっしゃることはありますか。

       

      まず大前提として認識しておかないといけないのは、日本とは文化的背景が絶対に違うということです。よくあるのは、海外の人は「イエス」か「ノー」がはっきりしているので、日本人的な感覚で曖昧は返事をしていると全然話が進まなかったり、交渉が拗れたりすることです。だから、「できる」「できない」をはっきりと相手に伝える必要があると思います。そして、「ノー」と伝える際に重要なのは、なぜできないのかという理由をしっかりと相手に伝えることですかね。

       

      あとは、なるべくネガティブなことは言わない方がいいですね。「I Don’t Know」とか「No Idea」と言うよりは、「I’ll Try」といったポジティブな言葉で返すことが大切かなと。結果的に上手くいかなかったのならそれはそれでしょうがない。日本人はどうしても先回りして物事を捉えてリスクを考えてしまいがちですが、とにかく、やれるかどうかはわからないけどもやってみるという姿勢を見せないと海外と仕事をしていく上では信用を得るのが難しくなってしまうと思います。ビジネスを進めていく際に最初からネガティブな態度を見せてしまうと、相手もネガティブになっていってしまうので。

       

      それから例えば契約書一つとっても日本よりも海外はかなり細かい部分まで書かれています。僕らが相手にする海外アーティストのエージェントとの契約書だと、来日した際に滞在するホテルはこのクラス以上でこういう部屋を押さえておいてほしいということまで書かれていることもあります。ですからビジネスにおいては基本的なことですが、契約書は隅々までしっかりと読み込むということもスムーズに仕事を進めていく上で大切なことだと思います。

       

      とはいえ、海外を相手に仕事をしていると予想もしないことは起きるものです。そこでどんな立ち居振る舞いをするべきかは、嫌な経験や失敗もたくさんしながら身についていくものだと思います。

       

      フジロックなどのフェスはじめ、ライブなどでは、何か予想外のトラブルが起きてしまい、その場ですぐに何かしらの対応や判断を迫られる場面もあると思います。そのような状況になった際にまず一番に考えられるのはどんなことなのでしょうか。

       

      あるトラブルが起きたとして、それに対してこういう対応をしたらその先でどうなるんだろうということをまず考えます。単にその場を凌ぐということではなくて、ここでこういう対応をしたら次はどんなことが起こりうる可能性があるのかなというふうに先を予測しておかないと失敗してしまうことが多いと思います。例えばフジロックで何かトラブルが起きた時に真っ先に考えるのはアーティスト、スタッフ、そしてお客さんの安全です。誰に何を言われようが、危険なことが起きる可能性が少しでもあるのであればすぐに止めます。トラブルには様々な種類がありますが、それらに対しての対応としては、その場の損得を考えるのではなく、そこでどのような判断をすれば次のステップに繋がるのか、どうすれば関わる人たちの信頼関係を深めることができるのか、ということを大事にすべきだと考えています。

       

       

      最後に、同じく日々ビジネスと向き合われている経営者の方たちへのメッセージがあればお願いします。

       

      僕自身、経営者になって日が浅い人間なのでメッセージなんておこがましいのですが、経営者という立場になるといろいろな問題や責任が生じてくると思うのですが、僕はそれらを楽しもうと考えています。こうした立場で様々なことを経験できる人間も限られていると思いますし、ある種の開き直りも必要なのかなと。そして、損得を重視するのではなく、信用や信頼をより多くの人から得るために自分にできることをやっていきたいなと思っています。どんなに小さなことだとしても、それが未来に繋がると信じて、一緒に頑張っていきましょう。

       

       

      ■プロフィール

      佐潟敏博

       

      フジロックフェスティバル立ち上げ当初から株式会社スマッシュの一員として現場を率い、2023年に同社取締役社長に就任。国内アーティストのライブ制作やプロモーションから、海外アーティストの招聘・興行、フジロックフェスティバルをはじめとするさまざまなフェスやイベントの企画・制作・運営を一貫して行う。

      SMASH オフィシャルサイト(外部サイトに移動します)

       

      ――――――――――――――――――

      FUJI ROCK FESTIVAL’25(外部サイトに移動します)

      2025年7月25日(金)26日(土)27日(日)

      新潟県 湯沢町 苗場スキー場

      ――――――――――――――――――

       

      ■スタッフクレジット

      写真:ただ 文・編集:SWITCH編集部

       

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      Published: 2025年4月18日

      Updated: 2025年5月16日

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