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26歳で東京から熱海へ。お土産だけでなく、街を盛り上げるお土産プロデューサー

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榎並紀行

やじろべえ株式会社代表、編集者、ライター

概要

東京から熱海へ移住し、「お土産プロデューサー」として活躍する横須賀馨介氏。埼玉で生まれ育ち、就職後は東京で活躍していた若者が、なぜ新天地でイチから事業を始めたのか。お土産を通じて街全体を盛り上げるべく奮闘している横須賀氏の、これまでの歩みや熱海への思いを教えてもらいました。

      リモートワークの広がりによって、地方移住や二拠点居住は特別な選択肢ではなくなりつつあります。しかし、地方でビジネスを立ち上げるとなると容易ではありません。事業として成り立つか否かという視点だけでなく、その土地ならではの習慣やコミュニケーションの特性など、考慮すべきことがいくつもあるからです。

      東京で広告制作をしていた横須賀馨介氏も、新天地でイチから事業を始めた一人。26歳で会社を辞め、東京から熱海へ移住。オリジナルのお土産を販売する土産物店を開きました。現在では、熱海のホテルや老舗の喫茶店、鉄道会社などからも依頼が舞い込み、魅力的なお土産を開発する「お土産プロデューサー」として活躍中。お土産を通じ、熱海の街全体を盛り上げるべく奮闘しています。

      埼玉で生まれ育ち、就職後は東京で活躍していた若者が、なぜ熱海で起業し、順調に事業を拡大できているのか。穏やかな語り口と柔和な笑顔の奥にたしかな情熱を秘める横須賀氏の、これまでの歩みや熱海への思い、大切にしてきたこととは。

       

      広告の力でローカルのカルチャーを盛り上げたい

       

      ――熱海に拠点を移されたのは2016年。それ以前にも東京や全国の街を盛り上げる、さまざまな活動をされていたそうですね。

      熱海に来る前は東京の阿佐ヶ谷に住んで、広告制作会社に勤めていました。阿佐ヶ谷には古着屋、喫茶店、本屋、雑貨屋、古道具屋、ギャラリーなど好きなお店がたくさんあり、楽しく暮らしていました。特に好きだったのが銭湯です。毎日のように通って、そのうち、この素敵な銭湯文化をもっともっと盛り上げたいと思うようになっていったんです。


      横須賀馨介氏

       

      ――それが、現在の「熱海を盛り上げる」活動の原点になっていると。

      はい。今は銭湯文化に再び注目が集まっていますが、当時は客離れが加速していて、どうにか力になれないだろうかと考えました。そこで、銭湯のことを調べているうちに、クリエイティブディレクターの箭内道彦さんが手掛けられた「風呂ロック」というイベントを知ったんです。吉祥寺にある弁天湯という銭湯で、浴場に作った特設ステージで行われるライブイベントです。音楽や広告的な手法でカルチャーを盛り上げていく仕掛けは、同じく広告の仕事をしていた僕にとっても刺激的でしたし、改めて広告ってすごい武器になるんだなと思いましたね。

      ――ちなみに、会社ではどんなお仕事を手掛けられていましたか?

      広告代理店グループの制作会社でナショナルクライアントの広告制作、デジタルプロモーションの仕事をしていました。会社の仕事もやりがいはありましたが、銭湯のことをきっかけに、個人での活動にも力を入れるようになったんです。自分のスキルを使って、好きなものや身近なものを盛り上げていく活動をしていきたいという思いが、どんどん膨らんでいきました。

      ――具体的に、どのような活動をされていたのでしょうか?

      例えば、「Get湯!」という新しい銭湯のカルチャーイベントを手掛けました。古くから銭湯文化が根づく京都に週末と有給のすべてを使って滞在し、そこで仲良くなった街の人たちを巻き込んで立ち上げたものです。喫茶店、古道具屋、本屋、飲食店、ギャラリーのみなさん、作家やアーティスト、ライブハウスなど、さまざまな人たちと力を合わせてつくり上げていく喜びがありました。

      また、その頃からローカルカルチャーにも興味が湧き、全国各地を巡るようになりました。老若男女を問わず、たくさんのカッコいい人たちに会い、さまざまな暮らしや仕事の価値観、夢について語り合うなかで、自分自身の世界が広がっていく実感があったんです。このときの経験はいまも糧になっていると感じますね。


      Get湯!のイベントポスター。銭湯グッズ専門店をつくり、日常で使える様々な銭湯グッズを開発。また、落語家やミュージシャンなどを招き、銭湯を舞台にトークやライブを行うなど、実際の銭湯を「日常を楽しむカルチャー」として溶け込ませた

       

      「ナイアガラ」の世界観に魅せられ、熱海へ移住

       

      ――さまざまな人との出会いからビジネスの軸がつくられていったのですね。2016年、26歳の時に広告制作会社を辞められて、熱海へ移住されたそうですが、どうして熱海だったのでしょうか?

      親の影響で、子どもの頃から大瀧詠一さんや山下達郎さん、細野晴臣さん、ユーミンさん、松本隆さん、佐野元春さんなどの「ナイアガラ・サウンド」が好きでした。熱海には自分が思うナイアガラの世界観や景色があると感じていて、もともと大好きな街だったんです。金曜の夜遅くに、東京から車を走らせ、明け方にハイウェイを通ると熱海のビーチラインが見えて素敵な休日が始まる。そんな、キラキラしたイメージです。

      実際、移住する前は週末の度に熱海を訪れていました。憧れの街の砂浜や海、温泉、喫茶店、スナック、ホテル、リゾートマンション、すべてが僕にとって魅力的でした。地元の人たちも暖かく接してくれました。顔なじみになったお店が増えていくと、ますます好きになっていきましたね。

      ただ、一方で2016年当時、熱海はやや衰退していて、観光客が減少していました。駅前やメインの通り、ビーチの人通りも少なく、静かな環境が好きな僕にとっては心地よかったものの、街としては大きな課題を抱えていたんです。そこで、これまで培ってきた広告やコミュニケーションの力を使って、熱海に活気を取り戻したいと考えました。

      ――とはいえ、会社を辞めて移住とは思い切った決断です。不安はありませんでしたか?

      当時は20代だったので若さもあったのだと思いますが、不安はまったくありませんでした。それよりも期待や希望が大きくて、とにかく飛び込んでみようと。そもそも、何をやるにせよノーリスクなんてことはない。まずはコトを起こし、そこから考えに考えて修正していけばいいと思っていました。当時は「とにかく熱海に行って、やりたいことをカタチにしないと気持ちがおさまらない!」という感じでしたね。幸い、会社員時代の蓄えで当面の生活費は工面できる見通しもありました。夢の実現のために、がむしゃらに貯金をがんばりました。

      ――移住にあたり、具体的に準備したことはありますか?

      移住を決めてからは特に何度も熱海へ足を運び、フィールドワークを行いました。土地勘を養い、現地の人と交流して情報を集め、さらには熱海の歴史やカルチャーも徹底的に学びましたね。本気で街の一員になるためには、表面的なイメージだけでなく本質を知ることが大事だと考えていました。

      移住と同時に「お店」を始める予定だったので、不動産会社を何社も巡って物件を探しました。でも、店舗物件を先に借りて、肝心の自分が住む場所のことを考えていなかった。お店の施工が始まってから、慌てて家を探しました(笑)。


      2017年から2019年まで営業した、みやげと憩いの店「論LONESOME寒」

       

      日本が最も「青春」していた時代を取り戻したい

       

      ――現在は「お土産プロデューサー」として活動されていますが、最初は自身でお土産店を運営されていたんですね。なぜ、お店をやろうと?

      僕が大好きなコラムニストの天野祐吉さんが『広告批評』のなかで、こんなことを書かれていました。いまは誰もが知る大企業も、明治時代や昭和初期に始まったひとつのお店、ひとつの看板、ひとつの商品、ひとつのポスターから始まったのだと。

      この言葉に共感し、僕もひとつの小さなお店から始めてみようと思いました。熱海の中でも人通りの少ない場所にお店を出し、そこから熱海のカルチャーを発信していく。そして、徐々に人が集まり始めて、熱海全体に活気が生まれていく。僕が本当にやりたい広告のあり方って、そういうことなんじゃないかと考えたんです。

      また、僕の師匠でもある沼田元氣氏の著書『鎌倉スーベニイル手帖』『憩いの写真帖』と出合ったことも大きかったですね。現在の自分自身の「お土産とは誰かを想うことから始まるもの」というマインドの基礎を築くきっかけとなった本です。今では沼田氏と一緒に、地域のカルチャーを次世代につなぐためにお土産開発などをしています。

      ――熱海のカルチャーを発信する手段が「お土産」であるというのは、とても面白い視点ですね。

      はい。お土産って「旅行のおまけ」のような捉え方をされがちですが、じつはお土産こそが「観光の醍醐味」であり、人を呼び込む力や想いをつなぐ力を持つコミュニケーションツールであると信じています。例えば、観光地やホテルのロゴが入ったTシャツなどは、お土産がそのまま「広告」になりますし、それを着ることで地域に対して「愛着を持っています」という証やメッセージにもなります。

      それに、お土産なら僕が大好きな熱海の世界観をそのままカタチにできて、たくさんの人たちへすぐに届けられるのではないかと思いました。ちなみに、僕が一番好きなのは、最も賑わいを見せていた「昭和の熱海」です。そこで、かつての熱海のレトロな雰囲気をモチーフに、私や友人の作家がつくったオリジナルのお土産を販売するようになりました。

      ――でも、横須賀さんは平成生まれですよね。

      そうですね。当然、リアルタイムで当時のことを体感しているわけではありません。でも、だからこそ自分たちの時代にはなかった華やかな昭和の世界に惹かれます。世界一の経済大国に向けて前進していた70年代、80年代、90年代。いわば日本が一番「青春」していた時代に憧れがあり、それを再び取り戻したいという思いもありましたね。

       

      地方でうまくやるコツはただ一つ「愛情を持って接する」こと

       

      ――その後、熱海の老舗ホテル「ニューアカオ」や、老舗喫茶店「サンバード」、さらには伊豆箱根鉄道のお土産までプロデュースされるなど、活動の幅をどんどん広げています。東京から来た横須賀さんが、どのように地元の信頼を得ていったのでしょうか?

      特別なノウハウやメソッドがあるわけじゃなくて、「愛情を持って接する」これに尽きると思います。僕の場合、最初はお客さんとして通い、常連になるところから始めます。例えば、熱海を象徴する喫茶店の一つ「サンバード」のTシャツを制作したのも、もともとは個人的に何度も通うことでオーナーやご家族と仲良くなり、いろいろなお話をするようになったのがきっかけです。たぶん、お店に通い始めてから3年はかかりましたね。


      ホテルニューアカオのTシャツ。他にも、手ぬぐいやトートバッグなどのオリジナルグッズを制作。創業時からあるロゴマークを生かしたかわいいデザインで、人気商品に

       

      ――3年……。たしかに心から好きじゃないと、そこまで通えませんね。

      はい。それって、効率重視のコミュニケーションとは真逆ですよね。でも、地方では、単にビジネスとして捉えていたら、ローカルで事業を起こすのは難しいと思います。ビジネス用語ではなく、人対人の言葉で話さないと、一緒にプロジェクトをやりたいとはならないと思います。

      ――そのとおりですね。最後に、これから地方に移住したいと考えている人、そこで事業を始めたいと考えている経営者に向けて、あらためてアドバイスをいただけますか?

      地方移住や二拠点居住は「第二の故郷」をつくることではないかと思っています。そのためには、自分らしくいられる土地を見つけ、時間をかけて深い関わりや信頼関係を築いていくことが大事です。

      そこでビジネスを始める場合は、繰り返しになりますが「愛を持つこと」が何より重要だと思います。打算や利害関係を抜きにして、とにかく「好きだから力になりたい」「一緒に何かをやりたい」という想いを本気で相手に伝える。泥臭い考え方だと思われるかもしれませんが、そのほうが、パワポでカッコいい資料をつくってプレゼンするよりも、ずっとあたたかい。そんなあたたかい想いがあってこそ、街の人と仲良くなることができ、いろいろなことを叶えていけるのだと思います。

       

      ■プロフィール

      横須賀馨介

      埼玉県行田市生まれ。明治学院大学法学部法律学科卒業。2014年に広告制作会社入社。主に、車、化粧品、大手チェーンの飲食ブランド、国内サービス、ゲーム、映画などのブランドにおけるデジタルプロモーションを担当。独立後、フリーランスとなり、東京や関西にて編集や雑誌、イベント等のコンテンツ制作の仕事をしたのち、熱海に移住。2017年、土産物店「論LONESOME寒」を経営。2020年、ハツヒ株式会社を設立。2021年からK-mixにて『OMIYAGE-RADIO ※外部リンクに移行します』番組パーソナリティを務める。また、同年8月から熱海の土産店&観光案内所「新熱海土産物店ニューアタミ」を運営。

      「新熱海土産物店ニューアタミ」SOUVENIR ONLINE STORE ※外部リンクに移行します

      横須賀氏が手掛ける熱海の街と歴史を作ってきた老舗の数々をフィーチャーしたお土産をプロデュースするブランド「LEGECLA(LEGEND CLASSICS)」 ※外部リンクに移行します

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:服部桃子(CINRA)

       

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      Published: 2021年10月15日

      Updated: 2023年10月18日

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