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成功するまで、何度でもチャレンジしてほしい。失敗してもすぐに再挑戦できるサービスで飲食店を応援

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尾越まり恵

株式会社ライフメディア代表、ライター

概要

デリバリー専用のクラウドキッチン「KitchenBASE」を運営するSENTOEN。場所の提供だけでなく売り上げ支援など、ハード・ソフトの両面からサポートできることを強みとして利用者数を伸ばしています。デリバリー専用のため、利用者は構想から1カ月で飲食業を開始できるというこのサービスに、代表の山口大介氏が込めた思いとは。

      店舗を持たないクラウドキッチンで
      飲食店同士のコミュニティをつくる

       

      ――SENTOENが手掛けているKitchenBASE(キッチンベース)のサービスについて教えてください。

      KitchenBASEは、デリバリーに特化した「クラウドキッチン」というビジネスモデルのサービスです。1つのビルに20~30ほどのキッチンが、それぞれ独立した状態で存在しています。そのキッチンで、パートナーである飲食店の皆さんに料理を作っていただき、「Uber Eats」や「出前館」といった既存のデリバリーサービスを利用してお客様に届けます。建物の中はキッチンのみで客席は存在しません。我々はキッチンの環境整備や、パートナーの売り上げ向上に貢献するためのサポートを行っています。現在は東京都内に8施設と大阪に1施設、トータルで191のキッチンを展開しています。また、我々もパートナーと同じ目線に立つために、自身の直営を3店舗運営しています。

      ――都内の施設は高田馬場や中野、神楽坂などにありますが、立地を選ばれる際の戦略はありますか。

      飲食店がリアルの店舗を出店するときは、「駅前」など、集客のための条件があります。デリバリーにも同じような指標があって、クラウドだからとどこでやってもうまくいくわけではありません。同じ東京23区内でも、デリバリーのオーダー数を比較すると、最も多い地域と少ない地域では4倍もの差があります。まずは、オーダー数の多い場所を見極めるようにしています。

      もう一つは、そのエリアにあるデリバリー店舗の数です。店舗が多く、オーダー数が多いのは当たり前ですが、オーダー数は多いけれどできるだけ店舗数の少ない場所を選べば、1店舗あたりのオーダー数は大きくなります。

      また、お客様は商品を自宅で食べることが多いのですが、企業からのオーダーも無視できません。数は少なくても、企業からのオーダーは1回の注文単価が高いのです。そのため、住宅と企業の数のバランスも見ながら立地を選んでいます。

       


      東京都台東区のKitchenBASE蔵前。ここには23のキッチン施設がある

       

      ――パートナーとして利用されているのはどのような飲食店が多いのでしょうか。

      すでにフランチャイズで大きく展開されている店舗から、初めて飲食店を始められる方までさまざまです。サービスを始めて3年になり、特にコロナ禍以降はデリバリーが人々の生活に馴染んできたものの、店舗を持たずにデリバリーだけで勝負する方はそう多くはありません。

      KitchenBASEが提供するキッチンには3タイプあり、まったくのスケルトンの状態で貸し出すもの、冷蔵庫のみのもの、そしてフルセットの設備付きのものになります。これから飲食店を始めたいと考える方は、フルセットのモデルでご利用されることが多いですね。少ない投資で自分の料理の腕試しができることがKitchenBASEの魅力でもあります。デリバリーで実績を上げてからそのエリアに店舗を構えれば、ファンが既にいるわけですから、オープン当初から来客が見込めるんです。

      ――KitchenBASEのサービスはこれから飲食店を始める方のサポートにもなっているんですね。そもそも、このサービスをつくろうと思われたきっかけや経緯を教えていただけますか。

      SENTOENは2018年に3人でスタートした会社で、実は創業事業は銭湯でした。その背景には、「コミュニティをつくる」事業をしたいという思いがありました。ただ運営するなかで、お客さんはお風呂に入りたいと銭湯に来るのであって、人とつながりたいと思って銭湯に来るわけではないと気づきました。

      そんなときにシェアオフィスのビジネスが台頭してきて、ビジネスパーソンが組織の壁を越えてコミュニケーションすることが、コミュニティの価値を最大化できるのではないかと考えたんです。飲食業界においてはコミュニティという軸で展開されているビジネスがありませんでした。そのようなコミュニティをつくれれば、売り上げの伸ばし方などのノウハウをお互いに共有でき、個人店であっても商機を見出せる環境をつくれるのではないかと考えました。

      最初に思いついたのは、フードコートのようなモデルです。ですが、その形では店舗同士がお客様を取り合ってしまう。それではいいコミュニティはつくれないと思い、お客様を取り合うことなく、同じ場所で共存できる方法を模索した結果、デリバリーに行きついたのです。デリバリーであれば、半径3km以内でその市場の数%を占めるような状態なので、取り合うことはありません。当時はまだ今ほどデリバリーサービスは浸透していませんでしたが、僕自身はよく使っていたんですね。人口減少により外食市場が縮小していくなかでも、デリバリー市場は伸び続けていくだろうという予感があり、クラウドキッチンをつくりました。

      実際、KitchenBASE内ではお互いに助け合ったり、一緒に飲みに行ったりしてくださっているようですし、KitchenBASEで出会った2人がKitchenBASEを卒業して一緒に飲食店を立ち上げたという例があったりもします。飲食店同士というフェアでカジュアル、対等な立場でのコミュニティに価値があると僕は考えています。ただ、この先は購入してくださるお客様と飲食店をつなぐ場もつくっていきたいと考えています。

       


      デリバリー担当への商品のお渡しは専門スタッフが行う。パートナーは調理に専念することができる

       

      チャンスがきたらすぐに行動
      失敗してもすぐに再挑戦

       

      ――コロナ禍以降、事業の状況は変化しましたか。

      コロナ禍がなければ、間違いなく今のキッチン数は実現できていません。サービスを立ち上げた当初は、パートナーさんにKitchenBASEのビジネスモデルをお伝えしても、なかなかイメージしていただけませんでした。しかしコロナ禍以降は飲食店さんがご自身でもデリバリーを始めるなど、デリバリーが親しみやすいものになったことは大きいです。結果としてパートナーの飲食店さんの売り上げが伸びたことがやはり一番嬉しいですね。

      ――誰もが予測できなかったコロナ禍がチャンスとなったということだと思うのですが、突然のチャンスをつかむために必要なのはどんなことだと思われますか。

      一番重要なのは、すぐにアクションを起こせる環境に自分の身を投じることだと思います。例えば、飲食店を開業しようと思った場合、不動産を見つけて、内装を考えて……とやっていくと、9カ月くらいかかってしまうんですね。そんなに時間をかけていたら、ブームがくるかもしれない、と準備を始めても、オープンしたときにはブームは終わっているかもしれませんよね。それに対して、KitchenBASEだったら構想から1カ月でオープンできます。未来を予測することはもちろん大事ですが、それに対してすぐに行動を起こすことが、チャンスを逃さない一つの方法だと思います。

      ――スピードを大事にして、小さくてもとにかく始めるということですね。「挑戦する価値ある場所へ」というメッセージを発信されていますが、そこにも繋がってくるのでしょうか。

      僕たちは飲食店の皆さんと「飲食をデリバリーだけで実現する」という新しい常識をつくりたいんです。「挑戦」というキーワードを発信しているのは、「どんな困難があっても頑張ろうね」というメッセージと同時に、KitchenBASEであれば何度でも挑戦できることを伝えたいと考えているからです。

      リアル店舗を開業した場合、1回うまくいかないとダメージも大きく、たいていの人はそこで諦めてしまいます。でも、デリバリーの場合は、例えば焼肉屋がうまくいかなくても、1回タブレットを閉じて、2週間後にはまた新しいブランドで挑戦することができるわけです。毎回のれんを変えて、内装を変えなければならない店舗のサイクルよりもはるかに速く、次の挑戦ができる。実際、KitchenBASEのお客様の中には、何度も料理の種類を変えて、8回目くらいにどかんと売り上げを伸ばせた人もいます。1回目から成功するのはまれな話です。だから、失敗へのリスクを最小限にして、成功するまで何度も挑戦する必要がある。一緒に頑張っていきましょう、というメッセージを込めています。

       

      起業のきっかけは1万円の投資から
      小さなリスクで商機を見極める

       

      ――これから挑戦していきたいと思われていることを教えてください。

      KitchenBASEは不動産というハードと、注文を受けるタブレットの仕組みなどのソフトのノウハウの両方を持っていることが強みだと思っているので、競合が増えている中でも、この強みで勝負していきたいですね。この1~2年は店舗の拡大に注力してきたので、これからはパートナーの収益体制を良くする仕組みづくりに力を入れて、その基盤ができたらもう一度ドライブをかけて、キッチン数を拡大させていきたいと考えています。東京・大阪以外の主要都市にも展開していく予定です。

       


      3人で始めたSENTOENも、今では総勢60名ほどに。直営3店舗では、スタッフが実際に調理を担当している

       

      ――とても明確に今後を描いていらっしゃる印象を受けました。現在は特に今後の見通しを立てにくい状況とも言えると思うのですが、経営者にとって必要な目線とはどんなものだと思われますか。

      経営者は1km先を見ながら軌道修正していかないといけないと思います。でも、先を見るのはすごく難しいことです。ただ、1つ言えることは、100日後といっても、今日からいきなり100日後になるわけではなく、1日1日の積み重ねですよね。明日どんなことが起こるかを理解できたら、それによって次の日はこうなるだろうという因果関係の予測ができると思うんです。

      例えば、100日後までに5kgダイエットしようと考えても想像するのが難しいかもしれません。でも、明日0.1kg減らすことは何となく想像がつきますよね。それを仮に50日続ければ5kg減ります。ただ、増減もあると思うから、100日くらいのバッファを持っておいたほうがいい。このように、今から未来へと積み上げていくフォーキャストのやり方で、僕は考えるようにしています。

      ――これから起業に挑戦する方にアドバイスをお願いします。

      僕は誰よりも臆病なので、最初に起業したときは、絶対に勝てる領域でチャレンジしようと思っていました。会社員の時代から10個くらい副業を経験して、興味のある業種の感触をつかんでいったんですね。最初の投資は、1万円です。1万円なら、頑張れば捻出できる金額ですよね。いきなり大きく起業をするのは危ないと思うので、小さなリスクでまずはスタートしてみるのがいいと思います。そうやって視力を良くして、先が見えるようになって、いけると思ったらその道に走っていくことを僕はお勧めします。最初は1万円でもビビります。でも、自信がつくと、意思決定ができるようになっていきます。10万円、100万円、1000万円……といった高額の投資の意思決定も少しずつできるようになります。

      僕は経営者になって4年目に入るのですが、1年目は今ほどの意思決定もフォーキャストの考え方もできていなかったので、心配しなくて大丈夫です。経営者はみんな、多かれ少なかれ精神的に追い込まれることはあると思います。まわりの経営者がみんなうまくいっているように見えても、実際に話を聞いてみると資金繰りがうまくいっていないとか、社員が大量に辞めていくとか、何かしら課題を抱えています。だから、うまくいかなくても孤独にならずに、まぁそうなるよね、くらいの気持ちで進んでいけたらいいんじゃないかなと思います。

       

      ■プロフィール

      山口大介(やまぐち・だいすけ)

      株式会社SENTOEN 代表取締役

      中央大学法学部を卒業後、ニューヨーク州立大学へ編入。映画監督を目指すも帰国後、インターンをしていた株式会社イグニスに入社。ユーティリティアプリ、チャットアプリなど複数のSNSアプリの企画から運営、iOTデバイスアプリ 目覚ましカーテン「mornin’」の企画・ディレクション統括に携わる。転職後、BCG Digital Venturesの立ち上げに参画。中国市場にて育児に特化した拡散メディア動画サービス「Babily」のPMとして従事。退職後、世界・日本一周をしたのちに、SENTOENを仲間と起業。銭湯に可能性を感じ、横浜の銭湯の経営権をもち運営を開始。ピボットしたのち、シェア型クラウドキッチン「KitchenBASE」を立ち上げ今に至る。

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文:尾越まり恵 編集:後藤文江(日経BPコンサルティング)

       

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      Published: 2022年9月8日

      Updated: 2023年10月18日

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