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経営者が抱える悩みやストレスに対する、メンタルヘルスケアのやり方

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尾越まり恵

株式会社ライフメディア代表、ライター

概要

事業を推進し、会社と従業員を守るという重い責任を背負う経営者は「従業員の健康を優先するため、どうしても自分自身のことは後回しになりがち」と、メンタルヘルスケアのカウンセリングサービスを提供する櫻本真理氏は指摘します。経営者が健全なメンタルを保つ意義や日々の生活で取り入れられるメンタルケアの方法について聞きました。

      業績への不安、コミュニケーションの難しさ……
      コロナ禍以降に生まれた経営者のストレス

       

      ――コロナ禍でリモートワークが進むなど、さまざまな状況の変化がありました。経営者の悩みにも変化は感じていますか。

      コロナ禍以降の経営者の悩みについては、いくつかのパターンがあると感じています。まず、インバウンド業界や飲食業など、新型コロナの影響をダイレクトに受けている会社の経営者は、もちろん資金繰りや業績に対して大きな悩みを抱えていらっしゃいます。

      もう一つが、オンラインでのコミュニケーションによる悩みです。必要なコミュニケーションがとれていないことや、日々のコミュニケーションに雑談や遊びがなくなったことによる、信頼関係構築・意思疎通の難しさなどにストレスを抱えているケースをよく耳にします。

      さらに、新型コロナはプライベートの人間関係にも大きな影響を与えています。例えば、家庭がうまくいっていなかったとしても、これまでは仕事に逃げることができました。しかし、在宅勤務になり家庭で過ごす時間が長くなると、逃げ場がありません。そのため、家庭内の課題が表面化したケースもあります。

      一方で、移動時間がなくなり仕事の効率が上がった、家族との関係性が良好になったなど、メンタルの状態が良くなったケースも耳にします。必ずしも、新型コロナがネガティブな影響だけを与えているわけではありません。

      ――メンタルを健全に保つために、前提となる心構えがあれば教えてください。

      まず、「コントロールできるもの」と「コントロールできないもの」とに分けて考えることが大切です。経営者やリーダーは推進力が強いゆえに、コントロールできないものに対してストレスを感じやすい傾向があります。

      例えば、緊急事態宣言がいつまで続くのかと悩んだところで、自分でコントロールすることはできません。一方、チームをどう健全にマネジメントしていくかはコントロールできます。このように、自分の中で明確に線引きをして、コントロールできないものへのいら立ちを手放すことが有効です。

      ――確かに、コントロールできないことがストレスになっていることが多いように感じます。ただ、意識を変えるのはなかなか難しそうです。

      大切になってくるのが、自分の中で何が起こっているのか、感情や行動を含めて、内省して自己認識をする習慣を作ることです。最近では客観的に自己をとらえる「メタ認知」という言葉もよく聞かれるようになりました。この「メタ認知」が高いほど、感情のコントロールがうまくいっているケースが多いと感じます。

      自分の感情や行動をコントロールの下に置くようなイメージです。何か感情が湧き起こった時に、その感情に振り回されるのではなく、「今こういう理由で、自分の中にこんな感情が生まれているのだ」と、少し離れた場所で観察する。そうすると、感情に振り回されることがなくなります。

      もう一つ、意識していただきたいのが、視点と視座、解像度を自由に行き来することです。

      ――それは具体的にどういったことでしょうか。

      視点を変えるというのは、「この側面から見ると解決しづらそうな問題だけれど、別の観点から見たらこの意味付けがある」といったように、視点を転換することです。短期的に見るか長期的に見るか、ロジカルに見るか感情で見るか、自分の視点か相手の視点か、仕事か家庭かなど、視点をたくさん持てば持つほど、その問題から生まれる苦しみは薄まっていく傾向があります。

      視座も同様で、日本全体で見るとこの問題は小さい、といったように、より広く大きな視座で見ることで、問題を相対的にとらえることができます。

      また、不安な時やメンタルが不調な時は、問題をとらえる解像度が低くなりがちです。「みんなから嫌われている」「全部うまくいっていない」と思い込んでいることが、解像度を上げていくと、嫌っているのは1人だけ、うまくいっていないのは100個中10個だけ、と明らかになる。そうすると、課題がハッキリしますし、対処法のイメージも湧きやすくなります。

      この転換を常に意識して一人でできるようになればベストですが、そもそも不調なときにはそのような見方の変化を意図すること自体が難しいこともあります。その場合は、カウンセリングを受けたり、友人でもよいのでコーチング的な問いかけをしてもらったりして、気付けるようになるといいと思います。

       

      部下は思い通りにならなくて当然
      だから、意思疎通の努力が必要

       

      ――ここからは、経営者がよく抱えがちな悩みについて、それぞれアドバイスをいただければと思います。まずは「部下が思い通りに動いてくれない」という悩みについてはいかがでしょうか。

      これまでのように画一的な価値観が当たり前だった時代は、同じ価値観の部下を採用して、ある程度部下をコントロールすることも可能だったかもしれません。でも、今のように個人がさまざまな価値観を持つ時代においては、言葉で伝えられることは限られてきますし、ましてや暗黙で伝わることはほとんどありません。そのため、相手はあくまでも自分とは違う人間であり、伝えるには努力が必要であるという考え方が必要です。

      私は実はこのことを子育てを通して改めて実感しています。産まれてすぐの0歳児とコミュニケーションが取れなくても、ストレスを感じることはありません。それが当たり前だからです。ただ、周囲の3~4歳の子どもの育児をしている母親たちを見ると、「子どもが言うことを聞いてくれない」と悩んでいる。言葉が通じるようになると、急に人は相手が「自分のことを理解してくれるはずだ」「自分と同じ価値観で、同じものを大切に思っているはずだ」という思い込みが発生してしまうのだと信じるようになります。

      コミュニケーションはもともと面倒なものです。伝わって当たり前だと思ってコミュニケーションをするか、面倒だけれど大事だから頑張ってコミュニケーションするんだという前提に立つかで、自分自身のマインドは随分変わってくると思います。

      ――続いて、「やるべきことが溢れすぎて、ストレス過多です」というお悩みに関してはいかがでしょうか。

      これも、コントロールを失っている状態なので、それを取り戻すことが大切です。

      まずは、やるべきことは何で、それはいつまでか、優先順位を決めて整理する、つまりタスクの見える化を行います。分からないことがストレスなので、分かることを増やしていきます。

      次に、見える化したタスクを今度はできること、できないことに切り分けます。できないものは人に頼る、締め切りを延ばすなどの対応をしていく。状況を整理すれば、スケジュールを延ばす理由にも説得力が生まれます。

      人は感情的になると正常な判断が難しくなるため、締め切りの交渉などのコミュニケーションは、できるだけ感情を落ち着かせてから行うことが鉄則です。感情を落ち着かせるには10~20分あれば十分。深呼吸する、外の空気を吸うなどして落ち着かせてからコミュニケーションを取るようにしてください。

      ――相談する人がいない、意思決定を一人で背負うなど、「経営者は孤独」という悩みもよく耳にします。

      実はどこかで経営者自身が孤独であることを選んでいることはないでしょうか。例えば、弱さを見せるのが怖い、信頼を失うのが怖いという恐怖や不安から弱音を吐けず、抱え込んでしまっている方も多いと感じます。でも今は、昔のように強いリーダーシップが求められている時代ではありません。弱さを見せて、人を頼り、ゆだねていくほうが、メンバーのモチベーションが高まることもあります。

      孤独であることが本当に必要かどうか、ご自分に問い直してみてください。考えてみて、それでも社内では頼れないと感じるのであれば、外に仲間や頼れる人を増やしていく方法もあります。家族や友人、経営者同士のコミュニティやメンター、専門家など、選択肢はいろいろあるはずです。

      孤独がカッコイイとされていた時代もあったかもしれません。でも、むしろサポートしてもらえる人を持っておくこと、それにより自身の心の安定を保ちパフォーマンスを高めていくことのほうがよほどカッコイイことだと、考え方を切り替えていただけたらと思います。

       

      ひとりで抱え込まずに
      経営者も周囲を頼ろう

       

      ――ご自身も起業前に、メンタル不調を経験されたそうですね。

      証券会社で働いていた時に軽い睡眠障害になり、メンタルクリニックの診察を受けたことがあります。病院では5分程度の診療で「軽いうつ状態ですね」と言われて、薬を処方されただけでした。自分自身でメンタル不調が生まれた背景を考えると、リーマン・ショック後の業績悪化により職場環境が悪くなっていたこと、加えて激務により、「そこから逃げられない」と思い込んでいたことからメンタル不調に陥ったのだと気づきました。薬を飲んで眠れるようになったとしても、自分自身の仕事の仕方や人との付き合い方などにしっかり向き合わなければ、根本的な問題は解決しないと実感しました。

      ――どのように乗り越えられたのでしょうか。

      私自身は、仕事から気持ちの距離を置く、ということを意識しました。それまでは仕事人間だったので、仕事の成功と自分の価値が一体化してしまっていたんです。それを引き離して、仕事以外の選択肢や仕事以外で自分が発揮できる価値を考えました。そこからより長期での可能性を考えるようになり、少し自由になりました。苦しい状況の原因から逃げられないと思うと、人は絶望してしまいます。「ここの会社でなくてもやっていける」「他にもこんな選択肢がある」と希望を持てたことが、不調からの回復につながりました。

      自分の経験から、メンタル不調が起きた時にしっかり扱ってもらえる場所がないことに課題を感じたことが、オンラインでメンタルヘルスケアのカウンセリングを提供するcotreeの起業につながりました。課題が生まれた時は、自分自身の人生が変化を必要としているタイミングでもあると思います。

      ――櫻本さんがメンタルを健全に保つために意識されていることはありますか。

      先ほどお話したような、視点を変える、コントロールを取り戻すことは日々意識しています。あとは瞑想ですね。今はスマホアプリもたくさんあります。瞑想をすると、課題と自分の存在を切り離すことができるんです。悩んでいる時は、頭が重くなる感覚がありますが、瞑想して切り離しを行うと、頭がすっきりします。

      しんどい時は、度の合っていないメガネをかけている感じがするんですよね。そのメガネの度を調整する、メガネを外してみる、違うメガネをかける。そういう感覚を意識しています。

      ――最後に、経営者の皆さんにメッセージをお願いします。

      経営者は日々忙しいですし、部下のケアに気を取られて、ご自身のメンタルケアの優先順位を下げがちです。でも、他の人よりおそらく多くの人と関わる立場にいる経営者がメンタルを保つことは、社会的にも大きなインパクトがあると思います。

      自分をご機嫌に保つ、メンタルを健全に保つことは、もはや社会貢献であり、事業の一部であり、仕事の一つである、そのくらいの意識を持ち向き合っていただけたらなと思います。我慢して抱え込んでしまう方も多いのですが、早めに助けを求めることはメンタルヘルスの観点から、とても重要なスキルです。早めに自己開示をして、周囲を巻き込んでください。思い切って弱さを出してみると、周囲の優しさや、みんなが持っている力に気づくこともあります。ぜひ恐れずに、声に出していただきたいと思います。経営者ご自身が健康でいることが、会社の成長にもつながるはずです。私たちcotree・コーチェットも、経営者の皆さんをせいいっぱいサポートしていければと思っています。

       

      ■プロフィール

      櫻本真理(さくらもと・まり)

      株式会社コーチェット 代表取締役、株式会社cotree(コトリー)代表取締役

      京都大学教育学部卒業。モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービス「cotree(コトリー)」を創業。2020年にビジネスに特化したコミュニケーションプログラムとしてCoachEd(コーチェット)を立ち上げた。同社代表取締役。

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文:尾越まり恵 編集:後藤文江(日経BPコンサルティング)

       

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      Published: 2022年6月6日

      Updated: 2023年10月17日

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