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種のお菓子「SHUKA」を世界に届くブランドに。1926年創業 甘納豆専門店・斗六屋4代目の「長所を伸ばす考え方」―My Rules vol.6 後編―

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朝日新聞社ツギノジダイ編集部
概要

世の中には無数の「Rule」が存在します。「Rule」には、普遍的なものもあれば、流動的なものもあります。「時代に合わなければ、変えればいい。まだなければ、つくればいい」。経営者やスタートアップ、スモールビジネスオーナーはそうして自らのビジョンを信じて前に進み続けています。本企画〈My Rules〉では、「進もう、自分のやり方で」と既存の概念にとらわれず、自由な発想・新しいやり方でビジネスを展開されている方々のインタビューをお届けします。

前編に引き続き、甘納豆の可能性を追い求め、2022年10月に種のお菓子の新ブランド「SHUKA」(しゅか)を立ち上げた、京都市中京区の1926年創業の甘納豆専門店、斗六屋(とうろくや)4代目の近藤健史氏にお話をうかがいます。SHUKAが掲げるビジョンのほか、前向きなチャレンジを続けられる理由や、長所を伸ばす商売の考え方にまで話題は及びました。

      新ブランドSHUKA誕生
      「自然と人の調和」をビジョンに

       

      ――「加加阿甘納豆」が大ヒットした一方、甘納豆と聞いただけで離れてしまうお客さんもいることに課題を感じていた、というお話がありました。解決するには、何かを根本的に変えるべきだと考え、工芸をベースにした生活雑貨の企画・製造販売とともに、全国各地の工芸や食の事業者の経営コンサルティングでも有名な中川政七商店(奈良市)の中川政七会長に相談に行かれました。種のお菓子の新ブランド「SHUKA」を立ち上げ、甘納豆のイメージを一新するという方向性が、その時点で見えていたのですか?

      いえ。ブランディングの必要性は感じていましたが、「斗六屋の名前は残しつつロゴを変える」とか、当時はそんな発想でした。というのは、過去に自分でブランドを作って苦労した経験があったからです。

      2020年9月に4代目代表に就く前に、甘納豆を健康路線で売り込もうと、独自ブランドを考え、ロゴを作り、商標登録も済ませました。血糖値の上がりにくい砂糖を使い、パッケージは洋風のテイストにして、黒豆のグラッセなどに挑戦しました。でも、斗六屋と独自ブランドが併存するので、商品やパッケージが異なり、工数がすごく増えたんです。結局手が回らず、やめてしまいました。

      この反省が生きたのは、中川政七会長と話しながらSHUKAの具体像が見えてきた時です。新たに立ち上げるSHUKAをやりながら、斗六屋を今まで通りに回すのは難しい。それでSHUKAに集中するため、斗六屋は縮小することにしました。具体的には、毎月16日を「斗六の日」として、その時だけ今まで通りの甘納豆を販売しています。また、家業を継ぐきっかけとなった壬生寺の節分祭も、今まで通りの形で出店を続けるつもりです。

       

      SHUKAで商品化した6種の種。伝統的な甘納豆で使われてきた斗六豆(白花豆)や小豆、黒豆のほか、カカオ、ピスタチオ、カシューナッツがある

       

      ――新たに生まれたSHUKAについて教えてください。

      SHUKAは種と糖だけで作る新感覚のお菓子のブランドで、漢字で書くと「種菓」です。「甘納豆って突き詰めると、種と糖だよね」という中川政七会長の発言に着想を得ました。甘納豆で使われてきた砂糖漬けという食品保存技術を用い、伝統的な甘納豆の素材である斗六豆(白花豆)や小豆、黒豆という日本の方になじみの深い“豆”に加え、グローバルに親しまれているカカオ、ピスタチオ、カシューナッツという“ナッツ”を合わせた計6種を商品化しました。

      SHUKAでは「自然と人が調和した、美しい世界を伝え残す」というビジョンを掲げています。ちょっと大げさかもしれないけど、僕は甘納豆が持つスタンスというか、あり方が美しいと思ってるんです。素材の色も形も残すお菓子で、自然の恵みに対するリスペクトを感じます。今後、自然と人の共存が今以上に言われると思います。甘納豆のあり方はそんな時代によくフィットするし、残した方がいいと思っています。

      「自然と人が調和した菓子作り」を体現するため、なるべく自然に返るもの、自然に負荷をかけないものを使っています。具体的に言うと、斗六屋ではもともと生産工程で重油を使っていましたが、設備を更新して、再生可能エネルギー100%の電力で全てをまかなっています。2022年10月6日に斗六屋の店舗(現在は改装し、斗六屋/SHUKA兼用の工房)の隣にSHUKAのブランドショップをオープンしました。壁や天井、床は京都の土と稲わらと水でできていて、再利用可能です。「種の気持ち」になれるよう、天窓から自然光を取り込んで、種が芽を出す時に見るはずの景色を再現しました。天窓のおかげで店内は明るく、日中はほとんど照明なしで過ごせます。商品パッケージに関しても、プラスチックは最低限にし、ほぼ紙製です。自然と人の共存を、まずはお菓子の分野で突き詰めたいと思っています。

       

      SHUKAの商品パッケージでは、プラスチックの使用を抑え、大半を紙にした

       

      ――SHUKAの立ち上げにあたり、クラウドファンディングを活用されたそうですね。

      SHUKAを広く知っていただくこと、メディアさんに取り上げていただくことを目的に、2022年8月から9月にかけてMakuakeでやりました。目標額150万円に対し、243万円の応援購入をしていただき、購入者には一般発売前の商品をお送りしました。

      初めてやってみて分かりましたが、クラウドファンディングってやる側も不安なんですよね。自信はあっても、まだ売ったことのないものを出すわけです。お客様にとっても、品物は写真でしか見たことがなかったり、コンセプトしか知らなかったり。それなのに、そこに賭けてもらったみたいな、通常の商売とは違った喜びがありました。やってよかったです。

       


      10月6日にオープンしたSHUKAのブランドショップの店内。床、壁、天井は土壁で、天窓から自然光が差し込む。「種の気持ち」を疑似体験できるよう、種が芽を出す時に見るであろう景色を再現した

       

      やめる理由はいくらでも
      それでも頑張り続けられる動機

       

      ――先代との関係が良くない時期があった、というお話がありました。周囲との折り合いの付け方について、ご自身の考え方に変化はありましたか?

      実務面で言うと、責任範囲を分けることですかね。実は家業に入ってすぐの頃、先代と大げんかになったことがあったんです。斗六屋では長年、斗六豆(白花豆)を漂白してきました。普通に炊くと色が黒くなるのと、卸先から「色のきれいなものを」という要望があったからです。でも僕はどうしてもやめたかった。そこで、壬生寺の節分祭に出す斗六豆の漂白をやめたいと切り出したら、取っ組み合い寸前になるほどもめました。

      あれは守備範囲がぶつかっていたからです。先代には先代のポリシーがあって、あそこはいきなり触ったらあかんかったと今は思います。まずは漂白していない商品を節分祭以外のイベントなどで売ってみて、それでもちゃんと買っていただける、お客さんに喜んでいただけるという実績を作ってから変える方が、先代も安心できたし、良かったんだろうなと思います。

      ここ1~2年の斗六屋の主力商品は“カカオ”ですが、たぶん先代は今でもおいしいと思っていなくて、「なんや、この黒いの」みたいな感じです。最初は僕にも「これのおかげでご飯食べれてるんやで」という気持ちもありましたし、「カカオうまいな」って言ってほしかったりもしました。でも、だんだん「同じように思ってほしい」と思わなくなったというか。違っていいし、違って当たり前だなと。逆に、僕が先代と同じ価値観だったら時代にも合わないし、会社も伸びないと思うんです。そう考えると、うまくやれるようになりました。

       

      SHUKAのブランドショップの店内。6種類の種は1箱900〜1300円(税込)

       

      ――甘納豆を取り巻く事業環境が厳しい中、頑張り続けることができるのはなぜでしょうか?

      家業に入った2016年以降、京都府内の専門店は僕の知る限りで3軒なくなり、現在はうちを入れて4軒です。全国的にも似た傾向で、甘納豆専門店は減っています。

      業界が縮小傾向だから、若者に人気がないから、コロナ禍で売上がゼロになったから――。事業をやめる理由はいくらでもありました。先代と言い争いになって「会社やめたろう」と出ていったこともあります。でも1日で戻ってきちゃうんですよね。

      根本にあるのは「僕がやらなかったら、ほんまに甘納豆はなくなるんちゃうか」という思いです。作る人も食べる人も減ってね。それはもったいないなあと。自分をここまで育ててくれた甘納豆に対して不義理ですしね。

      それから、単純に面白くなってきたことも頑張れる理由の一つです。続けていくうちに、「世界中の人が食べられる」「自然を大事にしている」という甘納豆のいいところが見えてきて。続けるうちに好きになったというか、好きになるまでやったという感じですかね。最初は自分の仕事に自信を持てなかったですけど、まわりがどうであれ、やっていることに価値があると今は思っています。

       

       

      ブランドショップ入り口の土壁。SHUKAのロゴのまわりに、様々な種が埋め込まれている

       

      甘納豆はオワコンじゃない
      商売に必要な、長所を伸ばす考え方

       

      ――その思いがあるからこそ、様々な角度から考えられるんですね。一般的な甘納豆のイメージを超えるようなお菓子が生まれた理由がわかったように思いました。

      物事の意味を常に考えています。無意味なことをしているって、悲しいじゃないですか。家業を継いで、「自分は意味のある仕事をしている」とやっぱり思いたかった。でも意味は自分で見つけないといけません。意味を探す中で、甘納豆のいいところが見えてきたんです。

      確かに普通に考えたら、甘納豆はオワコンかもしれない。でも僕は可能性があると信じています。その差って、プラスの面を見るか、マイナスの面を見るかという考え方の違いだと思うんです。

      ありふれた表現ですけど、物事には両面あります。例えば、こうして取材していただけるのも、甘納豆屋が減っていて、ある意味で僕の取り組みが目立つからだと思うんです。甘納豆屋がどんどん生まれる世界だったら、僕は埋もれているかもしれません。

      良い面を伸ばすことって、商売では絶対必要です。ネガティブなことを言ってても、何も良くなりませんから。その考え方がなかったら、SHUKAは生まれていなかったと思います。

      SHUKAでは販売中の6種の種以外に、全く別のジャンルの新しい種のお菓子を2023年夏ごろ発売予定です。SHUKAを世界に届くブランドに育てていきたいですね。

      ブランドショップ入り口の土壁にはSHUKAのロゴがあって、そのまわりにいろんな種を埋め込んであるんです。屋外なので雨も降りますし、そのうち芽が出てきたら面白いのではないかと、楽しみにしています。

       

      ※前編はこちら

       

      ■プロフィール

      近藤 健史(こんどう・たけし)

      有限会社斗六屋 4代目代表取締役

      1990年、京都市生まれ。京都大学大学院で微生物の研究をした後、2014年に菓子店「たねや」「クラブハリエ」を展開する「たねやグループ」に入社。2016年に家業である斗六屋に入り、2020年9月、4代目代表取締役に就任。2020年12月に発売した「加加阿甘納豆」が大ヒット。2022年10月、種と糖だけで作ったお菓子の新ブランド「SHUKA」を立ち上げ。2022年9月に開かれた合同展示会「第9回 大日本市」では、来場者による応援投票で、70超の出展ブランド中、SHUKAが1位に選ばれた。

      SHUKA ※外部リンクに移動します

      斗六屋 ※外部リンクに移動します

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文:朝日新聞社ツギノジダイ編集部

       

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      Published: 2023年1月23日

      Updated: 2023年10月18日

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