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ウェルビーイング推進の秘訣は、経営者が本気度を示すこと:企業実績に直結 ウェルビーイングで社員も社会も元気に!<第2回>

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松島佑実

ライター

概要

ウェルビーイングとは心身ともに良好で、幸せな状態を定義するもの。メンタルヘルスの問題やメタボ対策の話ではなく、人々がよりいきいきと生きていくための、方向性を示す指針でもあります。経営者がウェルビーイングを推進し、人的資本経営を実現していくためにはどのような意識を持ち、どういった取り組みを行うべきなのか。第2回は20年近くに渡って産業医としてウェルビーイングを促進し、現在は株式会社丸井グループの取締役執行役員CWO(Chief Well-being Officer)、専属産業医としても活躍する小島玲子先生に話をお聞きしました。

      ウェルビーイングはすべての
      ステークホルダーの幸せを1UP、2UPさせる

       

      ――ウェルビーイングが重視されるようになった背景について、見解をお聞かせください。

      昨今の働き方改革にともない、労働集約型から知識創造型産業へ構造転換を図る企業が増えています。大量生産・大量消費が前提の時代の日本企業では、多くの社員が上意下達による“やらされ感”で、機械的に仕事をしていました。しかし、現在は多様なニーズを満たすイノベーションが求められる時代です。そのため、一人ひとりの社員による創造性や、個々の強みを生かした価値を発揮することを重視する企業が増えつつあると感じています。

      これらの変革の中でウェルビーイングが注目されるようになった背景には、「すべての人々が豊かさや幸せを感じられる社会を創る」という意識の高まりがあると思います。単純な健康の話や最近出てきた新しい言葉と思われる方もいますが、ウェルビーイングとは1948年にWHO(世界保健機関)が提唱した健康の定義です。具体的には「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」。「幸せ」と訳されることもあります。

      ひと昔前までは、「人を幸せに」などと言うと、お花畑のような話題と捉えられることが多々ありました。しかし近年は、行動経済学の観点から「労働生産性や創造性の向上と幸福度に正の相関関係がある」と証明されたことやESGなどの非財務活動の浸透により、理解を示してくださる仲間が増え続けています。

      例えば、OECD(経済協力開発機構)諸国の幸福度と1時間あたりの労働生産性に関する研究では、「幸福度が高い国のほうが生産性も高い」という結果が出ています。また、アメリカの経営学誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』では「幸福度の高い職場はそうでない職場と比較して生産性が30%上がり、クリエイティビティも3倍になる」と発表されています。

      ――なぜウェルビーイングを推進すると、幸福度や労働生産性が高まるのでしょうか。

      人間の幸せには色々な分類がありますが、主に6つに分けられます。①「食べ物が美味しい」といった生理的欲求に基づいた幸せ、②金銭や富、地位を得るなど社会的な幸せ、③人間関係のつながりから得られる幸せ、④仕事などの行為に没頭する幸せ、⑤目的や意味の幸せ、⑥成長の幸せです。特にウェルビーイングな働き方の実現に強く相関しているのは、③④⑤⑥の幸せですね。長期的に満足感や活力を高めるため、仕事にうまくハマれば「やりがいを持って精力的かつ、幸せに働く」状況に至りやすくなります。

      私はこれまで医師として、働く人たちを支え、人と組織の活性化に貢献したいという思いで、ウェルビーイングを目指してきました。人々の幸せを調和させ高めていくことは自社の社員のみならず、すべてのステークホルダーの幸せを1UP、2UPすることにつながります。そのために大切なのは、自ら手を挙げ行動する喜びと、自身の行動に意味を感じられる環境づくりであると考え、ウェルビーイングを推進する施策に取り組んでいます。

       

      ウェルビーイングとは、「高リスク」「病気の人」だけでなく、すべての人が今よりもいきいきすること。

       

      ウェルビーイングを経営の根幹に据え、
      利益も幸せも追求していく

       

      ――経営者が自身の組織でウェルビーイングを推進していくためには、どのようなことから始めると成功しやすいでしょうか。

      よく「何をすればいい?」と聞かれるのですが、幸せな状態やどのような施策が適しているかは人や企業によって異なります。自社にとって何が最適な方法かを考え、試行錯誤しながら見つけていくしかないので、「これさえやればいい」という答えはありません。長い時間をかけ、経営の根幹から整えていくケースも多いので、一つのベストプラクティスの表面をなぞるだけでは、まずうまくいかないでしょう。

      あえて成功に不可欠な要素を挙げるなら、経営者が誰よりも本気でウェルビーイングに取り組むことだと思います。組織のトップである経営者自身が発信者となり、一人ひとりの社員やステークホルダーと真剣に向き合い、利益も幸せも追求するという姿勢を示していくこと。人材は企業や社会の宝であり健康はその根幹、すなわち経営の基盤であることを伝え「目の前の利益だけを追求する」という価値観を変えていく必要もあります。

      もちろんそのためには経営者自らが、ウェルビーイングについて発信することも大切です。ウェルビーイングとは、健康の推進だけを指す言葉ではありません。また、社員だけが対象でもありません。丸井グループでは、事業全体を通じて、すべてのステークホルダーの利益と幸せの調和と拡大を目指して行うのがウェルビーイング経営であると、統合報告書にも明示しています。そのうえで理解を得るための行動を起こし、ともに進むための社内・社外の仲間を増やしていくのです。あとはとにかく、本気度を見せていくことですね。

      また、これは私が話をする際にすごく意識していることなのですが、「考えを押しつけない」ということも成功の秘訣かもしれません。長年、産業医として健康指導を行ってきましたが、その気がない方に「これが健康にいい」「これをやってください」と指導してもほとんど響かないんです。

      ですから現在、丸井グループでウェルビーイングのプロジェクトなどを行う際は「やりたい」と興味を持ち、手を挙げていただいた方に参加してもらうようにしています。また、プロジェクトを進める際も、必要最小限の事実のみを提示するようにしています。結局、実践するかどうかは、その方の判断次第。自身で考える余白があったほうが、自主性を持って取り組む意識の向上や、価値観の浸透につながる気がしています。

       

      関連記事:ウェルビーイング経営とは?健康経営との違いやメリットを解説

       

      自主的な参加を促す「手挙げ文化」が
      企業の意識を変えていく

       

      ――丸井グループでは多くの社員が、自主的にウェルビーイングの推進に参加されているとお聞きします。その基盤にはどのような指導や取り組みがありましたか。

      基盤は2016年に社を挙げて始まった2つの大きな柱のうちの1つが「健康経営推進プロジェクト(現:ウェルビーイング推進プロジェクト)」です。そしてもう1つの大きな柱が、役員・管理職を対象にした「レジリエンスプログラム」です。どちらも期間は1期1年。参加者は当社の文化である“手挙げ式”で募っているため、積極的な気持ちを持つ社員が集まっているのが特徴です。過去に参加経験があるメンバーが“伝道師”となって習得した知識やノウハウを周囲に伝え、ウェルビーイングに賛同する仲間を増やしてくれるため、組織全体の意識改革にとても役立っています。

      「ウェルビーイング推進プロジェクト」ではまず、みんなが今よりも1UP、2UP幸せになるためのビジョンを作り、全社員を巻き込みながら様々な活動を企画・実行できる場を作りました。近年では地域の方々や、他社と共創する活動を行っています。これらの活動に参加することで働きがいや自己効力感が高まり、いきいきと輝くようになるメンバーは多いです。その姿も周囲の社員に良い影響を与えているように感じます。

      これらのプログラムを実施する際にも気をつけているのが、考えや知識を押し付けるのではなく、自主的に考える余白を残すことです。メンバー同士でマネジメントの方向性や仕事上の困難事例を共有し、「自分ならどうするか」を話し合う場を設けることも大切にしています。これはウェルビーイングを自分事として考える機会や、失敗を歓迎し成長を促す風土の醸成にもつながる機会でもあると考えています。

      ウェルビーイングへの取り組みが活発な事業所では、ストレスチェックの組織分析で、職場の一体感や個人の尊重が以前より高まっているなどの効果もみられています。

       

      丸井グループでのプロジェクトの様子。ウェルビーイングを自分事としてとらえ、自発的に取り組む機会を設けることが重要。

       

      ――なぜウェルビーイングという言葉が浸透する前から、ここまで積極的に取り組みを推進してこられたのでしょうか。

      代表取締役社長の青井が率先して「利益もしあわせも」をテーマに掲げ、10年以上前からウェルビーイングそのものを推進しているからだと思います。社員やお客様、株主投資家、地域社会、取引先だけでなく、将来世代もステークホルダーに掲げているのが当社の特徴ですが、ウェルビーイングも同様に、社員だけでなくすべてのステークホルダーに向けて取り組んでいます。「重なり合う利益としあわせの調和と拡大が企業価値である」と、トップ自らが発信している影響はすごく大きいと感じています。

       

      経営者の本気度が
      ウェルビーイングの成功を左右する

       

      ――最後に、ウェルビーイングな組織作りを目指す経営者の方にメッセージをお願いします。

      経営者が「人的資本経営に本気で取り組む」という意思を示すこと、それがウェルビーイングな組織作りの第一歩です。国に求められているから仕方なくやるのか、本気で人を大事にしたいと思ってやるのか、ウェルビーイングの成功は、経営者が人をどれだけ大事に思っているかの本気度にかかっているといっても過言ではありません。そのためには表面的なことではなく、社員一人ひとりに目を向け、向き合うことが大切です。「わが社はESGに取り組んでいます」「わが社は人が大事です」と言っているものの、“ポーズ”となってしまっているのでは、まず実現は難しいでしょう。

      ウェルビーイングは人生の多くを占める労働に費やす時間を、どうやってより良いものにしていくかを追求していくものです。これは企業組織のみならず、社会全体をどのように良くしていくかという考えとほぼ同義だと思っています。それは会社同士で競うことではなく、みんなで人を大事にする社会の風潮を作っていくことだからです。

      社会通念が大きく影響することでもあるからこそ、さまざまなステークホルダーと協働し、働き方をウェルビーイングにしていけるような社会づくりやムーブメントを起こしていく必要があります。私自身も多くの人が幸せな方向を目指す機会を提供していけるよう、経営者の方々とともに、一人ひとりの幸せをより高めていく方法を考え続けていきたいです。

       

      ■プロフィール

      小島玲子(こじま・れいこ)

      株式会社丸井グループ 取締役CWO/医師、医学博士

      大手メーカーの専属産業医を約10年間務める傍ら、総合病院の心療内科にて定期外来診療を担当。2006年より北里大学大学院医療系研究科に在籍、2010年、医学博士号を取得。2011年、丸井グループ専属産業医となり、2014年、健康推進部の新設に伴って部長に就任、同社の健康経営の推進役となる。2019年、執行役員。2021年、取締役執行役員CWO(Chief Well-being Officer)ウェルネス推進部長に就任。

       

      ■スタッフクレジット

      取材・文:松島佑実 編集:後藤文江(日経BPコンサルティング)

       

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      Published: 2023年1月23日

      Updated: 2024年8月8日

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